かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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主力事業と新事業の「不即不離」/『両利きの経営』(オライリー、タッシュマン)

【目次】

 

主力事業と新事業は「水と油」?

成熟事業を緻密に磨き込んでいく「深化」と、新しい事業の機会を見出していく「探索」。水と油ほど違うこれら二つの営みを、一つの企業内でどう両立させていくかについて論じた本です。

一定期間存続している会社であれば、当然その主たる事業に習熟しており、さらに洗練度を増そうと日々そこに人的・経済的資源を投下しているはずです。しかし、特定の分野に特化し続けるだけでは、いわゆる「破壊的イノベーション」が起きた際にうまく適応できず、企業体もろとも破壊されてしまう恐れが大いにあります。名だたる企業の栄枯盛衰というのは、まさにそうして起こっていくものなのでしょう。

そうした事態を避けるためには、常に新しい機会や脅威に対してアンテナを高くし、自分達の特技をどう生かしていけば事業化に繋げられるか、模索を続けていく必要があります。その探索が百発百中とはならないのは、織り込んでおかねばなりません。ただその「深化」と「探索」の両立は非常に難しい。下手をすると探索ユニットは他部門から人的・経済的な浪費と見なされ、どんどんリソースが剥がされていってしまう恐れもあります。

「不即不離」を保つための試行錯誤

その対策として著者らが提案しているのが「両利きの経営」なので須賀、これは両者の「不即不離」と言い換えてもいいのかもしれません。探索ユニットを多数派の深化ユニットからは(多くの場合は地理的にも)切り分け、経営者がちゃんと前者を守っていく。ただ、完全に切り離しては同じ企業で取り組むメリットもなくなってしまいますので、様々なリソースは共有できるようにしておき、また成功・失敗の判断などは明確な基準*1を設けて行っていきます。匙加減は難しいわけで須賀、「皆が感情移入できる抱負を定める」といったリーダーシップのあり方なども、豊富な事例とともに解説しています。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

この本の紹介で興味を持ったので須賀、そういえば出向中にも、短期的・具体的な目標に追われずに「探索」を続けるプロジェクトを見学させてもらったことがありました。現状の日本の新聞社で探索ユニットを維持運営することはますます難しくなっていくでしょうが、これまでのビジネスモデルに最適化され過ぎてきたきらいがあるからこそ、本来こうした問題意識を制度的に担保していく必要があるのだろうなと感じました。

*1:そのための制度設計についても後半で詳論されています

『「させていただく」の使い方』(椎名美智)

 

近年、使用頻度も違和感を表明する声も多い「させていただく」の用いられ方や違和感の原因などについて、アンケートや「青空文庫」の定量的な分析なども踏まえて論じた本です。

その上で「させていただく」一語への分析だけでなく、▽社会の変化(明治以降の近代化・社会の流動化、敗戦後の民主化)により礼儀正しい言葉遣いが必要とされるようになったこと▽そもそも敬語自体が使われ続けるとありがたみが減っていくものである(敬意漸減の法則)こと▽社会における自己と他者のあり方の変化ーといった問題系の存在を明らかにしています。

日本語や社会に通底する変化や課題に触れていく点が興味深かったで須賀、「最近の若者は傷付くのを恐れる」的な議論は一定の理屈はあるとはいえ、やや野心的かなという気がしました。

ja.m.wikipedia.org

一方こういうものを見ると、「敬意漸減の法則」が日本語だけのものではないと理解できます。

『民族とネイション』(塩川伸明)、『民族という名の宗教』(なだいなだ)

 

前者は再読ですが、旧ソ連地域を専門とする研究者がナショナリズムを整理した本です。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

ナショナリズムの発生・展開に典型例はない」というところで、豊富な事例をうまくフェーズごとに紹介できている印象です。

後者は、まさに旧ソ連社会主義陣営が崩壊しつつあった時期に、人をまとめる原理としてのナショナリズムや宗教、そして社会主義の役割に共通性を見出しつつ、社会主義の果たした(果たしうる)ことについて考える本でした。

 

奇しくもロシアとウクライナに関する問題と近い議論が展開されていた2冊でした。ロシアでは今回の侵攻を正当化する(フェイクを含めた)情報・論調が広がっており、批判的な意見の多くは封じられ、その結果なのか、ロシア国民の多くが侵攻を支持しているとされているようです。

そのロシア国内の「温度感」はなかなか察知しづらいところではありま須賀、戦況は明らかにロシア側の当初の思惑通りとはなっていない中で、「支持者」たちの認識と実際の戦果のギャップが露呈した時、(まさに一冊目が指摘するように)自ら煽ったナショナリスティックな世論をコントロールできなくなる「魔法使いの弟子」状態に陥ってしまうことはないのか、あるいはそれを理解しているからこそ、一定の戦果を得るまでこの悲惨な戦争を続けるしかないと判断しているのか。いずれにしても、不幸なシナリオです。

煙害に立ち向かった善人たちの物語/『ある町の高い煙突』(新田次郎)

 

茨城県日立鉱山の煙害にさまざまな立場から立ち向かった人たちの物語です。特に被害が大きかった村の名家の若き当主と、鉱山会社の社長が実在の人物をモデルとしているということもあってか(後者は立憲政友会総裁も務めた久原房之助)、ストーリーとしては興味深いものでありながらも、登場人物にあまり影がないというか、善人が多い話だなあという印象でした。

ちなみに著者は、『国家の品格』で一世を風靡?した藤原正彦のお父さんなんですね。知りませんでした…

自転車で訪ねた物語の舞台

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この本を読んだのは、舞台となった日立鉱山あたりにサイクリングに行った後で、同行した同僚に薦められたからでした。

大煙突は30年ほど前に倒壊し、写真のような高さになってしまっていま須賀、その近くにある「失敗作」の煙突たちも合わせて、試行錯誤を続けた人々の営みの歴史を証言してくれています。改めて写真を見返してみると、感慨深いものです。

権力と対峙し、自らの権力性に向き合う/『地方メディアの逆襲』(松本創)

 

元・神戸新聞記者である著者が、秋田魁新報琉球新報毎日放送瀬戸内海放送京都新聞東海テレビ放送といった地方メディアのジャーナリストを追いつつ、ローカルだからできる報道・果たせる役割は何かを考える本です。

登場するのは、現場に足を運び、人の話を聞き、主張よりも事実を淡々と記録していく記者たちです。著者は、その地道かつ地元の一員として逃げ隠れしない(そもそもできない)姿勢、さらに言うと「大阪ジャーナリズム」に代表される中央=東京へのある種の反骨意識に、ジャーナリズム全体が細る現状における希望を見出そうとしています。

報道の使命の一つに、(公私を問わず)権力の監視があります。これを果たしていく上で、東京という政治経済的な権力の中枢の外にいることは、重要な意味を持つということなのでしょう。一方本書の例でいえば、京都新聞東海テレビが向き合っている事柄は、当の報道機関自体が一つの権力であることを示しており、(地方)メディアと権力を巡る両面の問題に目配せできる構成となっています。

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その上で個人的関心から一つ言えば、取材においても報道においても収益化においても、すでに避けて通れなくなっているデジタル化に各社がどう向き合っているか、その点について言及があるとなおよいのではと思いました。

「宇宙人」を探す時空の旅/『地球外生命』(小林憲正)

 

地球の外に生命はいるのか?

地球の生命史から、火星・木星の衛星エウロパ土星エンケラドゥスなど太陽系の天体、そして太陽系外までを旅しながら、その問いに対する現時点での知見を示してくれる本です。

よくまとまっていると思いますので、内容に関心のある方は一読されることをオススメしま須賀、一つ印象的だったのは、著者がアストロバイオロジー(地球内外における生命研究)における「予断を持たないこと」の重要性を繰り返し強調している点です。

これまでの生命探査では、水がある(あった)天体が重視される傾向にありましたが、地球生命にとって有害な他の物質の液体による「海」であっても、生命を育むゆりかごになり得ます。その「海」は、往々にして我々には耐え難い極低温だったりもするでしょうが、それが可能性を排除する理由にはなりません。私たち人類は、自分が知っている唯一の生命(地球生命)の仕組みを無意識のうちに前提としがちで須賀、それは比較の対象がまだ得られていないからでしかありません。この広い宇宙には、もっと多様な生命があり得て、おそらくその度に「生命」という概念自体の更新も求められていくのでしょう。

多分それは、アストロバイオロジーの世界だけの話ではないはずですね。

 

異動しますが仕事は変わりません/『世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた』(永井孝尚)

【目次】

 

マーケティングの名著を平明に紹介

書名通りの本で、マーケティングの古典から最近の話題書まで、洋の東西問わず紹介してくれています。

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この姉妹書で、事例も豊富かつ平明ですので、私のような初学者が議論の要旨や流れを把握したり、ブックガイドとして用いたりするのに適していると感じます(紹介されている何冊かを図書館で予約しました)。自分のビジネスに置き換えながら読み進めるのも楽しいですね。

4月に異動になります、が…

自分の仕事、と言えば、4月1日付で編集局のデジタル編集部門に異動になりました。

これまではビジネス部門でデジタルと関わる部署にいたので、それなりの変化に見えま須賀、業務内容はそこまで変わりません。あまり詳しくは書きませんが、先日来、今後のニュースサイト構築に主に戦略面から関わっていくことが主なミッションになっており、所属部署が変わっても、やることは大きく変わらない…のだそうです(全く同じということはないわけですけど)。

率直に言って予備知識のない分野ですので、まずはこういう本を読んだり、ツテを頼って同業他社さんのお知恵をお借りしながら、これからのサイトの将来像について思いを巡らせている(そこまでの気持ちの余裕は正直ないが)ところです。