かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『民族とネイション』(塩川伸明)

民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)

民族とネイション―ナショナリズムという難問 (岩波新書)

旧ソ連地域の政治などを研究する著者が、世界各地の豊富な事例を紹介しながら、民族とネイション、ナショナリズムについて論じた本です。事例から理解していけるのでナショナリズムを論じた本としては非常に読みやすく、よくまとまっていると思います。
人間というのは、どうしても自分の関心のある特定の事例からものごとを考えがちだと私は思うので須賀、これだけ多くの比較の材料を提供されると、自分が当たり前だと思っていたことがそうばかりも見えなくなってきますし、これまで結び付けて考えたことのないようなもの同士の意外な接点というのも見えてきます。ごくごく簡単な例で言えば、同民族の南北朝鮮は両方とも(建前では)統一を言いますし、相当な紆余曲折を経ながらもその方向を目指すのだろうという理解は少なからずあると思いま須賀、ちょっと考えてみれば「同民族別国家」が定着しつつある例というのは非常に多くありますし、朝鮮半島自体がその好例と言えなくもありません。
また、ナショナリズムという現象を理解するのにも、この方法は有効だと思います。私もそう考えてしまっていた時期があるので須賀、この現象を図式的・観念的に捉えることにあまり意味はないと思います。その「起源」や「流行」に様々な背景があることを感得する上でも、効果的な構成だと思います。ここであんまりこういう言い方をしたことはないかもしれませんが、この本はオススメです。
魔法使いの弟子が呼び出したほうきに乗ったはいいものの、ほうきを制御できずにどこかへ飛んで行ってしまう―。著者はこの「魔法使いの弟子」の話をナショナリズムにたとえ、抗争がエスカレートする前に「煽る」か「歯止めをかける」かが重要、と説いています。日本ではこう言うと、江沢民時代を中心とする反日教育や「官製」反日デモを思い浮かべることが多いでしょう。では、逆はどうであるのか。比較を通じて(自分の)特定の立場を相対化することが、この本に貫かれた姿勢であったなら、(もちろんそれは著者の意図を超えているで生姜)あちらからはどう見えているのか少し立ち止まって考えることが、ほうきを制御する道であるように思います。