かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『ネット社会と民主主義』(辻大介編)、『メディア論の名著30』(佐藤卓己)

 

【目次】

 

「5ちゃんねる」利用は寛容性を高める

インターネット利用と民主主義のあり方との関係について、アンケート調査と統計的手法を駆使して論じた本です。

▽ネット利用による政治的意見への選択的接触はさほど起こっていない▽自民党の継続的な支持層であることと有意な相関があるのは「経済的自由主義」「ナショナリズム」「男性」「経済的ゆとり」「朝日新聞以外の新聞閲読」「産経ニュースの閲覧」▽Twitterや「5ちゃんねる」の閲覧は異なる意見への寛容度を高めている▽パソコンでのネット利用は、政治的関心の強い人ほど政権支持の分極化をもたらすーといったことが示唆されています。

総じて言うと、ネット利用が意見接触を偏らせる(知りたいことだけ知る「フィルターバブル」状態に陥る)ことには否定的見解が集まったものの、各人の社会経済的状況が政治的関心・知識に及ぼす影響を促進しており、感情面での元々の傾向を極性化する(「アベガー」などとも揶揄される安倍政権反対派がネットでの情報収集を通じてさらに批判的になる)ことで政治的分極化に繋がっているのではないか*1、というのが本書の分析となっています。

「フィルターバブル」はそんなにない?

いわゆる「フィルターバブル」論は、「幕の内弁当」のように手広く(あまねく、ではない)ニュースを盛り込んでいる新聞の優位性を主張する際の根拠となることが多く、実際に私自身、自社のサイトデザインを議論する際に「援用」したことがあります。もちろん、ウェブメディアの技術的性質やアーキテクチャの作用は無視できないでしょうが、利用者の側にもそれ一辺倒にならない使い方があるというのは頼もしい話と言えそうです。

一方で、これもネットスラングとして知られる「情弱(情報弱者)」的な状態が、政治的関心→政治参加を経由して社会経済的立場の悪化に繋がっていく負の連鎖が形成されつつあるのだとすれば、それは「沈黙の螺旋理論」の変種であるとみなせるかもしれません。

「なぜその本を読んだか」は面白い

ここまで話をすれば、次にこの本を読みたくなった理由も察していただけ…るでしょうか?

『八月十五日の神話』などのメディア史研究で知られる著者が、自らの研究者としての半生に触れながら、選んだ本を紹介してくれています。

このシリーズには、みっちり「名著」の内容や学問的影響を語っている本もあったように思いま須賀、著者がなぜ、どのようにその本に出会い、読むことになったかという情報は、案外有益だなと実感しました。私自身の経験でも、読書・ニュース・仕事・プライベート問わず、何らかの文脈で読んでみたいと思うに至った本を買ったり、図書館で予約したりしても、いざ読むタイミングになってみるとその経緯や情熱を忘れてしまっていたりすることも多くあります。そうなってしまうと最早なかなか読む気分にもなれないわけで、自分のものではないとはいえ、読む動機が上手に表現されていると、その本への関心もそそられますね。

節穴読書に開き直る

30冊の中に、これまで読んだことのあった本が3冊ありました。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

が本書の著者の訳書と知らず、今更ながら驚きました。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

で、肝心要のナチ時代に触れていないことに気付かなかった自分の目の節穴さ具合と、それ以上に「権威主義的な」読書態度にガックリしました。

そして久しぶりに

canarykanariiya.hatenadiary.jp

のことを思い出し、「読みたいように読んで、言いたいように言えばいいんだ」と開き直りました。

このレビューの中で既に書名を挙げましたが、「4冊目」は今朝、注文しました。この温度感を覚えているうちに読めればいいので須賀。

*1:先取りすると、2冊目で紹介される『政治の象徴作用』(エーデルマン)にもかなり似通った指摘があります