増補 八月十五日の神話: 終戦記念日のメディア学 (ちくま学芸文庫)
- 作者: 佐藤卓己
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/12/10
- メディア: 文庫
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結論からかいつまんで言ってしまうと、これは戦前から続いた「お盆ラジオ」の延長線上に定着していったもので、戦後10年の1955年ごろにはいわゆる「8月ジャーナリズム」として定着していったのだそうです。しかしそれは、終戦(侵略戦争に敗れた)記念日であることからくる(べき)「戦争を反省し平和を願う態度」と、お盆であることによる「死者を追悼する態度」の混同を招きます。この日にしばしば行われる政治家による靖国参拝をイメージしていただければわかりやすいと思うんで須賀、参拝した方は「死者の魂を慰めに行っただけ」のつもりでも、先の大戦で日本と戦争をした国々から見れば「こいつら、負けたその日にA級戦犯に頭下げに行くんか」ということになって、話が余計ややこしくなってしまうわけです*1。そうであるならば、少なくともそれを避けるためにも、8月15日の「戦没者追悼の日」と降伏文書に調印した9月2日の「平和祈念の日」に「政教分離」しましょう、著者はそう提案しています。
もちろん、いわゆる歴史認識に関わる諸問題がそれで解決するわけではないでしょう。戦後70年を経て、当時の記憶を保持する人が格段に減ってきたからこそ、不幸な出来事の「記憶」をめぐる軋轢はより政治的な色合いを帯びていくのかもしれません*2。しかしそれでも、「他国の人々と戦争を理性的に討議するには、まず討議の枠組みを整える必要があると考えた」「記憶や認識の問題にメディア研究者が貢献できるとすれば、それはまず討議に適した時空を確定することではないだろうか」という著者の眼目は、ここでの議論によって達せられているように思います。
終戦記念日が死者を弔うお盆の時期と重なっていること。それが戦後日本人の意識にどのような影響を与えているかは、個人的にも興味のあるテーマでした。この本がその歴史的経過を実証的に紐解いてくれたことで、理解への大きな助けになりました。
ちなみに関連書籍のつもりで、
- 作者: 小森陽一
- 出版社/メーカー: 五月書房
- 発売日: 2003/08
- メディア: 単行本
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