【目次】
- 作者:ジャレド・ダイアモンド,ポール・クルーグマン,リンダ・グラットン,マックス・テグマーク,スティーブン・ピンカー,スコット・ギャロウェイ
- 発売日: 2020/07/20
- メディア: Kindle版
コロナ後の世界を生きる――私たちの提言 (岩波新書 (新赤版 1840))
- 作者:村上 陽一郎
- 発売日: 2020/07/22
- メディア: 新書
奇しくもまた、日本国内で新型コロナ感染の第3波が取り沙汰されていま須賀、育休終了前に「今を考える」きっかけにしようと、比べ読みをしてみました。
キャラ立ちの文春版、不揃いな岩波版
文春新書は『銃・病原菌・鉄』、『LIFE SHIFT』、『GAFA』などなど、日本でも話題となった本の著者ら6人へのインタビュー集です。岩波新書の方は、日本と関わりの深い論者らによる寄稿が中心となっています。
前者はそもそも論者たちが「キャラ立ち」していますし、同じインタビュアーがコンセプトを揃えて取材・編集しているので、一冊の本としてちゃんとまとまっていました。それに比べて後者は、特に最後など素敵なパートは複数あったものの、全体としての不揃い感は否めませんでした。多様な分野に知見がある人たちが、それぞれの議論を展開すること自体は良いことだと思いますけど、そうであればこそ、各パートを結ぶor比較するための何かしらの軸が必要となってくるはずです。それを見出し、引き出すのが編集の技量だと思うので須賀、これだけの論者を集めておきながら、ややもったいない気がしました。
「何が変わるか」より「何を変え、何を守るか」
国内外の(と言っても日米英であったことには留意したいです)様々な意見を読んで感じたのは、当たり前のことで須賀、「コロナで何が変わるか」よりは、「何を変え、何を守っていくか」を考えて選びとっていく方に頭を使いたいな、ということです。
会社に出勤することが前提の働き方は変えられる。今春の経験を通じてそう感じた人も一定数いたでしょうし、私もそうでした。
canarykanariiya.hatenadiary.jp
そういったものは変えていけばいいし、変えていけると感じます。私個人も「会社以外でできる仕事は会社以外でやります」と言い続け、上司の理解も得つつ、社内で(やや突出しつつも)率先して、その勤務形態を続けてきたと自負しています。それは自分のためという以上に、社内でこの働き方の可能性を示していきたいとの思いからでもあります。偉そうに言えば、「社内の雰囲気が変わる」のを待つのでなく、「社内の雰囲気を変え」たい。
話は戻りま須賀、一方で、このコロナ禍を口実に改憲(緊急事態条項の追加)を進めようという目論見は、岩波新書の杉田敦の指摘にあるように、そもそも立法事実を欠いており論外と言うしかありません。この場で改憲の是非について一から論ずるつもりはありませんが、一連の感染防止対策が往々にして市民の自由を制約するものである以上、権威主義的な思惑を持つ政治勢力による火事場泥棒のような主張には注意が必要です。
「コロナ後は何もかもが変わる」「いやいやまた元に戻るだけ」といった未来予想が無価値だとまでは思いませんが、このように、結果として生まれた良い変化の芽を育て、守るべきは守っていく主体的姿勢を持ち続けたいと考えます。温故知新ってやつですかね?
個々の人間の価値尊重こそ
せっかくなので最後にいくつか、心に残った一節をいくつか紹介させてください*1。
試されるのは…いかに、人間価値の値切りと切り捨てに抗うかである。(藤原辰史)
「緊急時」に現れるcompassionは、困窮が継続する可能性や、困窮の要因が不可抗力か自己責任かといった議論に向かい合わず、それを考えることを迂回した考え方である。この考え方の延長線上に、「平時」の困窮に対する解決策はない。(阿部彩)
この状況からの脱出を「生き残り」と呼ぶのは誇張かもしれないが…それは他者と共に生き残ることを構想する《利他的生き残り》の哲学に立ったものでなければならない。(最上敏樹)
ロックダウンに際し、人権意識の強い諸国でも政府による行動制限が広く受け容れられたのは…自分たちの生命・健康を守るために、自分たちへの「規律」が必要だと多くの人が認めたからである。…したがって、もしもある国の政府が、感染症対策が進んだことを「成功体験」として、他の問題でも人々を従わせることができると考えたら、手痛いしっぺ返しを食らうことになるだろう。(杉田敦)
ちょっと雑多な感じになってしまったかもしれませんが、社会として一定以上まとまった対応が不可欠な情勢で、如何に個々の人間の価値を尊重していくかが、特に問われているのだと感じます。先ほどの話で言うと、それこそまさに、第一に守り抜くべきものでしょう。