かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

『「昭和天皇実録」の謎を解く』(半藤一利、御厨貴、磯田道史、保阪正康)

世に出回っている本、特に新書の中には、タイトルと書いてある内容が驚くほど違っているものが多く見受けられま須賀、逆にこの本ほど書名がストレートに内容を表現しているケースは最近少ないと思います。宮内庁編纂の昭和天皇一代記を、多くの別史料や背景知識を駆使して読み解こうとする対談を収録した本です。
この場合の「別史料」とは、天皇側近や有力者の日記や回顧録などを指してそう呼んでみたわけで須賀、それらが執筆者の視点やストーリー、明け透けに言えば利害関係に基いて書かれている*1のと同様、この「実録」にもそうした意図は見え隠れします。そうした部分を多角的に照射し、いかに浮かび上がらせるか、もっと言えば、昭和史の最重要人物の角度から光を当てることで、激動の時代の歴史にどんな新発見や深みを加えることができるか、そんな試みがなされています。なので論者それぞれが「実録」そのものに対しても批判的な読み方をしていますし、逆に個々の事件を語るに足りないものを補ってくれていたりもするので、私のような素人が読むのであれば、原本よりこちらの方が理解に資するくらいかもしれません。手軽に読めますので、これは結構オススメです。
一つだけ印象的だったくだりを挙げるなら、戦前の*2天皇には三つの顔があった、という指摘です。一つは憲法の枠内で君臨する*3立憲君主であり、二つ目は軍の大元帥、そして最後は、皇祖皇宗に連なる「大天皇」だ、というもので、確かに統帥権はあるんだけど謙抑が求められる立憲君主でもあるだけに実際はほぼ行使できない。言わば「抜けない刀」であることを、国際連盟脱退の原因ともなった熱河事件の経過などを通じて説明しています。対談の中で用いられていた「神殿の壁」という喩えはあまりピンとは来ませんでしたが、昭和天皇のそうした「ジレンマ」を見抜いて悪用するような立ち回りを見せる軍人も結構いたようで、「昭和天皇の戦争責任云々」と大声で言うのはたやすいことで須賀、じゃあそんな状況下で実際何をどこまで成し得たのか、少し考えてしまいました。

*1:自分に都合の悪いことはうまくごまかしたい

*2:この本は昭和20年ごろまでの事柄にほとんどの紙幅を割いています

*3:なので時の総理大臣を叱責して総辞職に追いやってしまうと、元老に怒られる