かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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北朝鮮本4連発!

北朝鮮現代史 (岩波新書)

北朝鮮現代史 (岩波新書)

北朝鮮――変貌を続ける独裁国家 (中公新書)

北朝鮮――変貌を続ける独裁国家 (中公新書)

ここのところ北朝鮮関連の本を続けて読んでおりまして、ごくごく簡単になんですけどまとめて紹介させていただきます。今回読んだのは順番に、
北朝鮮現代史』(和田春樹)
北朝鮮―変貌を続ける独裁国家』(平岩俊司)
北朝鮮秘録 軍・経済・世襲権力の内幕』(牧野愛博)
北朝鮮 瀬戸際外交の歴史: 1966〜2012年』(道下徳成)
の4冊です。前の2冊(『現代史』『変貌』)は通史、3冊目はジャーナリストによるこぼれ話(『秘録』)、最後(『瀬戸際』)は具体的な瀬戸際外交の事例分析で、通史についても国内イデオロギーや体制のあり方に主眼を置くか、国際政治の観点が中心であるかという違いがあり、それぞれ読み応えがあって興味深かったです。
より横断的に言うなら、「遊撃隊国家」から「正規軍国家」*1への「メタモルフォーゼ」*2たる先軍政治の成立について、『現代史』では、金正日が父の死後に朝鮮人民軍の最高司令官であったことや、そうして軍を掌握した後に食糧危機に突入したことなど、比較的成り行きっぽく説明している一方、『変貌』は、ルーマニアなど旧東欧圏で軍隊の反目が政権の命運を断ったことの影響を重視しています。瀬戸際外交などを繰り出す政権内の意思決定過程でも、『秘録』が金正日を唯一の結節点とした超縦割りの「提議書政治」を挙げ、『瀬戸際』は外交と軍事行動の緻密な連携の背景に、統合作戦本部のようなものの存在を挙げています。こうした良く言えば多角的な見方、悪く言えば見解の齟齬が多くみられることは、ある程度は北朝鮮という国家の特殊性に起因しており、そこが醍醐味といえば醍醐味でもあるわけです。
それにしても、船出間もない金正恩体制は今後どのような針路をとっていくのでしょうか。その瀬戸際外交の目的が防衛的なものに徐々に変化していることや、外交当局者らの人事の硬直性の高さを指摘する『瀬戸際』からは、従来からの大転換の余地を読み取るのはやや難しいで須賀、『秘録』はその卓越した取材で「宮廷」内部の蠢きを数多く紹介しています。『現代史』にある通り、機構的にも朝鮮労働党に重心が移りつつあるとは言えそうですし、『変貌』は、金正日の「遺訓政治」のあとに来るメタモルフォーゼを見据えるのみならず、その遺訓そのものにさえ、換骨奪胎的に事態を打開する糸口を探っています。人一倍、ウォッチしにくい国であるのはご案内の通りなわけで須賀、それでも何が変わって何が変わらないのか、冷静に見極めていくことが、こうしたアカデミズム・ジャーナリズムの蓄積を生かすことにもなるのではないでしょうか。

*1:『現代史』の用語です

*2:こちらは『変貌』