かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

『LIFE SHIFT2』(アンドリュー・スコット、リンダ・グラットン)

 

技術的発明と社会的発明

人生100年時代」の問題提起で話題を呼んだ著作の続編です。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

前著でも扱った長寿化と、「技術的発明と社会的発明のタイムラグ」に焦点を当て、教育→仕事→引退という紋切り型の人生の3ステージが通用しなくなりつつある今、一人一人の個人や企業・教育機関・政府がどんな未来を見据え、今からどう振る舞っていくべきかを論じていきます。

「技術的発明と社会的発明のタイムラグ」とは、新しい技術(群)が発明・導入されてから、社会がそれに対応して恩恵を行き渡らせるまでに一定以上の時間を要することを指します。かつての産業革命も、労働者をはじめとする人々の生活水準を向上させるには数世代の時間を要しており*1、著者らは現在のデジタル化も同様の推移を辿る可能性が高いと指摘します。

人生100年時代の「働き方」

肝心の社会的発明に向けては、日本のものを含む世界各地の取り組みを紹介しつつ、「一緒に考え、実践していきましょう」という結論になっています。個人にとっては、目指したい・あり得る自己像を踏まえつつライフステージの多様化に対応していく先に、社会的発明に繋がる実践があるのかもしれませんし、それは「社会的発明」という語感から想像するような大きな物語ではなく、多様なあり方の連続体のようなものかもしれません。一方で、個人のそうした試行錯誤を促すのも押しとどめるのも、制度であり権力であり個人の財産形成に影響力を持つ「企業・教育機関・政府」のカテゴリーの動向による部分が少なくありません。「働き方改革」というワードも人口に膾炙するようになって久しいで須賀、残業減やテレワークだけでなく、本書にあるような「100年近い人生全体における働き方」を変えていってこそだと実感させられました。

 

「社内転職」をどう生かすか

出向を契機に、期せずしてデジタル部門に「社内転職」したような格好の私は、人事配置によって新しい分野の「探索」を会社が後押ししてくれているという意味では恵まれているのだと感じます。ただ、その業務経験をこの先の人生における自分の資産にしていけるかどうかは自分次第であり、そして、言うても私を筆頭に多くが素人の寄せ集めである新聞社ですので「デジタル担当として業務をしっかりやりました」では通用しないことも明らかです。プロジェクトを回していくということも含めて、業務以外の場でも学んでいかねばと改めて感じました。

コロナ禍に見た「自由に浮動」する関係

あと印象的だったのは、パートナーの双方が人生の中でキャリアを追求していくため、社会・経済的条件に制約されずに当事者の選択によって「自由に浮動」する関係を築こうとする、との指摘でした。

「お互いずっと働き続けなくてもいいよね。少なくともどちらかの収入があればなんとかなるでしょ」と約束して結婚した*2のを思い出しましたし、小さいレベルの話にはなりますが、保育園に通う娘が濃厚接触者になった時、在宅で代わる代わる娘を見ながらオンライン会議などの予定をこなしていったことも頭をよぎりました。あれは確かにしんどかったですし、お互いの職場にも少なからずの迷惑をかけてはしまったわけですけど、家族で連携して支え合って非常事態に対処しているという妙な充実感はあったんですよね。そうした経験から、(もちろん夫婦だけでなく)柔軟で安定した関係になっていけばよいのではないかと思っています。

*1:これを「エンゲルスの休止」と呼ぶそうです

*2:ただ、実際に子供がいたりするとそこまで簡単な話でもない