【目次】
ゴジラが見た北朝鮮―金正日映画に主演した怪獣役者の世にも不思議な体験記
- 作者:薩摩 剣八郎
- 発売日: 1988/10/01
- メディア: 単行本
拉致された名監督による怪獣映画
ゴジラの「中の人」を演じた怪獣役者が、北朝鮮の怪獣映画「プルガサリ」に出演するために訪朝した際のできごとを記した本です。出演が決まった経緯から撮影現場や宿泊先の様子、そこで出会った人々との交流などが軽妙なタッチで描かれており、楽しく読み進めることができました。
また注目すべきは、韓国から北朝鮮に拉致された申相玉監督がプルガサリの制作指揮をとった点です。申監督夫妻が映画の完成まもなくアメリカに亡命したことは、この映画の運命をも大きく変えました。
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申監督の手記にはプルガサリについてそれほど多くの記述はありませんが、ラングーン爆破事件後で著者を含む日本の撮影チームとの出演交渉が難航したこと、身辺の安全には申監督が責任を持ち、出演料を倍払うことで出演にこぎつけたこと、金正日も作品の出来に満足し、スタッフたちに贈り物がされたことなどが書かれています。
日朝映画史に残る一冊
怪獣特撮映画の「主役」がその現場を語った本であり、国際的な拉致事件の被害者が指揮した作品であるわけですから、日朝双方の映画史に残る一冊だと言ってもオーバーではないはずです。
35年ほど前の北朝鮮訪問の雰囲気を知ることもできます。当然著者は北朝鮮専門家ではなく、いわば体当たりで現地の人や事象と接してきたわけて須賀、読みながら自分が行った時のことを思い出していました。あれももう、15年前のことになってしまいました。
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麦酒とテポドンのトレードオフ
こちらは元朝鮮新報(朝鮮総連機関紙)記者の著者が、自身の訪朝取材経験を交えながら、昨今の北朝鮮経済について論じた本です。
タイトルに似合わずかなりしっかりした本で、そのタイトルも「人気の大同江ビールの輸出を目指すことと、テポドンに象徴される核ミサイルの開発を続けることのトレードオフ」を示したもので、読めばその辺も腹落ちします。こちらも2010年代までの北朝鮮、特に平壌以外の地方都市の様子を窺い知る上でも有用だと思います。