- 作者: 崔銀姫,申相玉
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1989/03
- メディア: 文庫
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そうでないとこんな本を書けっこないので当たり前の話で須賀、2人は北朝鮮からの脱出に成功し、アメリカに移り住みます。そして申相玉は2006年にソウルで死去。崔銀姫は健在のようで、昨年の金正日総書記死去に際し「私が被ったことを考えると、今でも怒りがこみ上げてきます。こうして故人となってしまって、一方では怒るだけではいけない。故人の冥福を祈らねばとも考えます」とコメントしたとのことです。
拉致は、その人の人生に無理矢理刻印をしてしまう行為です。物を取ったのなら、返すことでとりあえず原状に戻すことはできます。しかし、時間を返すことはできない。彼らが北朝鮮で体験したことは、望むと望まざるとにかかわらず彼らの経験として刻印され、それすらが自分自身を構成することを拒否できません。
崔銀姫は「どんな人でも死ぬのは残念なこと」という理屈だけで、「怒るだけではいけない。故人の冥福を祈らねば」と言ったわけではないでしょう。恐らく金正日という人間との思い出や、彼に対する様々な思いが交錯する中で、そう発したのではないかと思います。彼女のその*1境遇は、一概に不幸だとかいう言葉で片付けるべきものなのか若干躊躇がありま須賀、何にせよ、人の人生を大きく変えてしまう拉致という暴力の爪痕を、彼女のコメントに見たような気がした一方、ある意味においてそれを自分の一部として受け止め、人生を歩んでいる彼女の強さのようなものも感じさせられました。