平壌でのフィールドワーク経験豊富な著者が、北朝鮮の三代の指導者による都市設計を「巨人による箱庭づくり」になぞらえ、平壌という都市を論じた本です。
著者によれば、スターリンの支持を背景に権力を得ていった金日成は、スターリン的な新古典主義。映画などの芸術に触れた金正日は、ブラジリアの都市計画を経由してロシア構成主義。そして金正恩は「科学技術による宇宙未来都市」的な建築・都市設計を志向したそうです。
そうした議論を北朝鮮国家の歴史と絡めて展開しつつ、平壌の建築物やアート、著者がロックプロジェクトで接した少女たちの写真を多く収録しています。
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私が平壌を訪ねたのは2005年10月でしたので、それ以降の平壌の風景*1の写真が豊富で非常に興味深かったです。
一方で、政治的背景などの記述を中心に、通説的な北朝鮮政治史研究の成果にそぐわないものも散見されました。一例で須賀、冷戦の終焉により北朝鮮が核開発の権利と国連加盟を得た、の如き表現は、これらは後ろ盾を失った北朝鮮の窮余の策という側面が強いものですので、結果そう見えても、政治学的分析上はバランスを欠いていると思います。
そんなことを考えながらページをめくっていると、最後に「平壌は(著者が生まれ育った)大阪万博の頃の千里ニュータウンによく似ている」という指摘がありました。平壌という都市のありようを、北朝鮮の歴史を通じて解説し切れているかどうかについては議論の分かれるところかもしれませんが、平壌と当時の千里ニュータウンの両方を見てきた人が、その実感を語るという意味では貴重だと思いました。
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