かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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そしてその『クロッシング』が

北朝鮮>国内でひそかに流通、映画「クロッシング
◇消息筋「内部を詳細に描写し人気に」
(アジアプレス特約=「デイリーNK」 イ・ソギョン記者)
最近、北朝鮮咸鏡北道などの中国国境地域の住民のあいだで、2008年に韓国で制作された映画「クロッシング」(監督キム・テギュン)がひそかに流通し、人びとのあいだで人気になっていると、内部消息筋が伝えてきた。
クロッシング」は、病気の妻を救うため死を覚悟して中国に脱出した父と、その息子の切ない事情を描いている。息子は父との再会を信じ、国境の川を目指すが国境警備隊に捕らわれ、労働鍛錬隊に送られる。北朝鮮の過酷な現実を描いた映画として国際的にも話題となった。
咸鏡北道で密輸業に従事する人物は、「最近、クロッシングのDVDを探す人が増えた。当局による市場の取り締まりが強化されたが、住民は密輸商などに追加の金を渡してまで購入している」と伝えた。
「価格が通常よりも3倍も高い6000ウォン(約200円)ほどだが、モノがなくて売ることができない」と説明。
クロッシングを観た人は、『ありのままの姿を表現している』と評価している」と話し、中国に脱北する場面、労働鍛錬隊で苦労に直面する姿、息子が父親に会うことが出来ずにモンゴルの原野で死ぬシーンが話題になっている」とも伝えた。
映画では、脱北を選択するしかない現実と北朝鮮内部の生活がリアルに描写されており、こうしたシーンが北朝鮮住民のあいだで口コミで広まり、人気が出たと思われる。
咸鏡北道の消息筋は「クロッシングの内容は、今日の北朝鮮の現実だ。とくにこの地域には脱北者が多く、人気があるようだ。中学校の生徒が貸し借りするほどに大人気になっている」と話した。
また、両江道の消息筋は、「韓国のドラマや映画が入ったDVDを購入するために、平城、咸興、沙里院からもやって来る。以前は、男女の愛を描いたドラマが好まれたが、最近では北と南の関係を描いた映画やドラマの人気」と話した。とりわけ「クロッシングの人気が断然高い」という。
さらに、「通常、DVDは1枚2000ウォンで、人気のある歴史ドラマは1枚4000ウォンだが、クロッシングやアイリス(ドラマ)は1枚5000ウォンもする。取り締まりが強化され危険ではあるが、DVDを販売する商人が最近は金をたくさん儲けている」と話した。
(7月14日、アジアプレス)

当の北朝鮮でも人気を博しているということだそうです。自分たちの国から命がけで出ていく行為を描いているわけですから、このニュースを一見するに「そんな話が統制外で人気になるようだと、北朝鮮の体制も長くはないな」と思えがちで須賀、果たしてどうでしょうか。
知られてはいけないはずの脱北や中韓の豊かさが広く流布し、映画にも出てくるような市場が存在するようなあり方は、北朝鮮統治機構ではなく社会の側に弾力性を与える方向に作用するのではないか。すなわち、自然発生的に形成された市場はなんとなく黙認され、脱北行為は無論取り締まられるが、現実問題として無事に逃げおおせる方法はないではない。そして、脱北に失敗してもそれが即、死を意味するわけではない*1。そういう、体制側からみた「あるべき社会」からの逸脱ルートが一定程度でも存在することは、その社会がそれなりにバランスを保っていくことに寄与するのではないか。
もちろん「この映画に描かれたような北朝鮮社会は、抜け道もあってそれなりに回っているんだからそれでいい」ということを言っているのではありません。いわゆる「ガス抜き」と言うべきなのかちょっと迷いがありま須賀、価値判断を抜きにしてみてみれば、弾力性のあるものは壊れにくいものです。
まあ当然、与えられた衝撃の大きさによりますけどねww

*1:無論過酷な生活が待っているわけで須賀