かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

被爆者と被爆体験に迫る衝撃の一冊/『未来からの遺言』(伊藤明彦)

 

長崎のラジオ記者時代から1000人以上の被爆者に会い、その音声を記録し続けてきた著者が、最も印象的だった男性「吉野さん」との出会いから別れまでを語った一冊です。

私自身、あまりこういう紹介の仕方をしたことはないと思いま須賀、これはなかなかにすごい本です。聞き取りを続けるためにラジオ局員という立場をも投げうち、職を転々としながら録音テープを回し続けた、という著者の来歴にも脱帽で須賀、何より吉野さんを巡る物語(あえてこう書きます)もすさまじい。ネタバレは避けたいので詳述しませんが、これは百聞は一見に如かず、関心のある方は是非通読してみていただきたいです。

そこを避けながら感慨深かった点を少しだけ述べるなら、著者は、吉野さんを含む多くの人への聞き取りを通じ、被爆者とは誰か、被爆体験は何かということすら超えて、生死に意味を求める人間という存在についてまで思索を深めていきました。

原爆は、被爆者から人間らしく生き死にするために必要な条件を奪った。それと同時に、被爆者が人間らしく生き続けようとすることは、そのことを通じて原爆を否定し返すことだったー。

この言葉にこそ、原子爆弾が他の兵器と区別されて論じられる所以があるのだと、私自身痛感させられました。それは唯一の被爆国ゆえに成り立った特殊な言論空間ではないはずです。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

直前に読んだ昭和史の本によると、米国が原爆を投下したのは「日本本土への上陸作戦によって多くの死傷者を出すのを防ぐため」とされているそうです。同じ事象を論じたはずの双方の断絶の大きさに、眩暈がしました。