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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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育休中パパが語る「私の職場の雰囲気」/『男性育休の困難』(齋藤早苗)

 【目次】

 

男性育休の困難 取得を阻む「職場の雰囲気」

男性育休の困難 取得を阻む「職場の雰囲気」

  • 作者:齋藤 早苗
  • 発売日: 2020/08/21
  • メディア: 単行本
 

時間意識に着目し広く論じる

男性育休取得を妨げているのは、仕事優先の時間意識を暗黙の前提とする職場の雰囲気なのではないかー。育休取得男性や長時間労働を経験した男女へのインタビューを通じて、働く人全体に関わる問題提起を試みる本です。

印象的だったのは、定性的分析による骨太の理論構成でした。著者は仕事と家庭の両立を巡る問題を、時間の使い方に関する意識(時間意識)から分析しようとします。

本書は「仕事時間が私生活の時間を規定する(仕事のない時間が私生活の時間)」という職場の暗黙の前提と、「育児が仕事時間を規定するよう要請する(子供を世話する時間は親の都合で変えられない)」ことは、時間意識のあり方において正反対であると指摘します。その上で、仕事優先の時間意識を内面化してきた(日本の場合多くの)労働者が二者択一の選択を迫られた際、性別役割分業意識が働くことなどにより男性は仕事を、女性は育児を選びがちだと論じています。

このように、主に男性育休について検討しながらも、性別を問わない仕事と家庭の両立問題、さらには働く人全体の仕事と私生活のバランスの問題にまで踏み込む、射程の長い議論を展開しています。理屈立てがしっかりしていて明晰だなあと感じましたが、逆にあえて悪い言葉を使えば、理論先行の側面もあるやもしれません。それはインタビューという定性的な手法にもよるものでしょうが、著者自身も言う通り、さらに多くの事例を検討する方が説得力が増していくように思いました。

note.com

 

取得者が語る「私の職場の雰囲気」

そこと直接リンクするというほどのことでもありませんが、「育休を取得した男性は特別視されがち」という著者の指摘について、私自身の取得経験から少し述べたいと思います。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

canarykanariiya.hatenadiary.jp

私は、ともに新聞社に所属していた2014年夏に2カ月間、今年秋に3カ月間の育休を取得しました(現在も育休期間中です。なんとあと2週間!)。先のリンクにもあるように、第1子の時にした最初の相談では、直属の上司にかなり驚かれましたが、この本にあるような本格的「交渉」をするまでもなく、すぐに取得を後押ししてくれました(そのかわり復帰後、紙面で「育休連載」を執筆することになりましたw)。

当時は男性育休の取得例としては初めてに近かったようで須賀、紙面で連載しましたので結果として全社的に知るところにはなりましたし、(多分私の振る舞いとは関係ないでしょうが)上の世代を含めて男性の育休取得や時短勤務の例が増えてきました。そのため6年後、第2子の育休について持ちかけた際に「交渉」したのは開始時期と期間くらいのもので、すんなり話が進んでやや意外なほどでした。もちろん業務を巡るフリクションがあった例も耳にしましたが、少なくとも今は、育休を取った男性が特別視される、ということはないように思います(あくまで取得者の認識ですけど)。

人手不足が深刻化する一方のこの会社において、「育児によって仕事時間を規定する」判断を許容する雰囲気が広がったのは、恐らく「報道機関だから」でしょう。新聞紙面で両性による育児参加の重要性を度々説いている以上、懐事情が苦しくても、足元でその動きを妨害するわけにはいかないはずだ。そういう意識は編集サイドを中心にあると感じますし、私も嫌な顔をされたら、そう主張するつもりでした。

身も蓋もない、それこそ特殊な事例かもしれませんが、「男性育休取得が進みつつある職場の雰囲気」をも、本書の議論の中に位置付けていければ興味深いなと思いました。