【目次】
ヒトラーとナチ・ドイツを巡る3冊です。
薄氷の軍事的成果
前2冊はヒトラーの出生から語り起こしながらも、前者は彼が総統として独裁的権力を握る(ワイマール共和国が崩壊する)過程と「国家的メガ犯罪」としてのホロコースト、後者は彼が巻き起こした侵略戦争と戦後における「ヒトラー像」について、それぞれ力点が置かれています。
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前者は再読なので、その時のレビューを紹介しておくにとどめます。後者では、深刻な財政危機から目を逸らすために対外拡張を繰り返した側面、そしてラインラント進駐や第二次大戦前半のフランス打倒が薄氷を踏むような「勝利」だった点、スターリングラードでの戦いの前から、ヒトラーその人が大戦での負けを察知していたのではとの証言などが印象的でした。
国民的合意と側近の忖度に支えられた政権
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最終章を割いたヒトラー像の議論はこちらの本を思い出しました。時代による変遷を経つつも、近年はナチ体制が国民的合意と側近の忖度に支えられていた面が強調されているとのこと。今の日本に生きる私たちとしても、学ぶべきことはまだまだ多そうです。
「合法的に成立した独裁」は誤り
3冊目は、(書名はなんだか安っぽいで須賀)特にワイマール憲法体制が破壊されていく過程について、憲法学とドイツ近現代史の第一人者が論じているとてもよい本です。
「ヒトラーは大衆から選挙で選ばれた」(→保守派の思惑により少数派内閣として成立)、「ヒトラーは合法的に独裁体制を樹立した」(→契機となった国会議事堂炎上はナチスの自作自演)といった、一連の経緯についてよく言われる誤解を解きほぐしつつ、一時的な「委任独裁」を企図したワイマール憲法の国家緊急権が、憲法の規範を超えたむき出しの憲法制定権力の如き「主権独裁」を招いたことを説明します。その上で、それを防ぐための各国の緊急事態条項に込められた工夫などに言及しながら、現状、日本で提案されている条項の危険性を指摘しています。
「むき出しの主権独裁」をどう防ぐか
昨年からの新型コロナウイルスの世界的流行や、先の衆院選で改憲論議に前向きな「ゆ党」が伸張したことで、日本でもこれから、「緊急事態条項から改憲を」との声は大きくなってきそうです。そこで「改憲派対護憲派」の「敵か味方か」的な不毛な分断に陥らないためにも、この本に書かれているような内容は把握した上で、「憲法に書き込む必要があるのか」「あるとすれば、どんな条項にする必要があるのか」を冷静に議論できればよいのではないかと感じました。