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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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「とりあえずビール」のルーツは戦中のビール配給制?/『居酒屋の戦後史』(橋本健二)

 

居酒屋の戦後史 (祥伝社新書)

居酒屋の戦後史 (祥伝社新書)

  • 作者:橋本 健二
  • 発売日: 2015/12/02
  • メディア: 新書
 

社会学を専門とする著者が、「フィールドワーク」を交えながら戦後の酒文化・居酒屋文化を分析し紹介する本です。

▽戦前の屋台をルーツに持つ闇市が、やがて駅前に移転するなどして戦後居酒屋の重要な起源となったこと▽元々ビールは高級酒だったが、戦中や戦後の混乱期に配給されるようになってから大衆化・味の画一化が進んだこと▽原酒の割合によって序列が生じたウイスキーは、高度成長期に社会的地位と結びつくことで日本酒とビールに次ぐ普及を見せたこと▽高度成長末期に到達した経済格差も飲む酒の違いも少ない「酒中流社会」が、近年の格差拡大で崩壊したこと*1▽そしてその格差が酒文化全体の衰退を招きつつある(=そもそも経済的理由で酒が飲めない人が増えているとみられる)ことーなど、酒を嗜む人にとって非常に興味深い歴史的背景や洞察が多く盛り込まれています。

高見順坂口安吾といった文化人の日記から小津映画まで、豊富な資料を渉猟しながらも、酒への愛に満ちたフィールドワークやインタビューを重ねた成果が感じられます。一方で、格差社会論における知見を生かし、データに基づいた問題提起がなされており、多彩なアプローチも本書の特色でしょう。ひとつだけ欲を言えば、東京以外の飲酒文化の展開についても知りたいところです。関西圏など、いわゆる「東西の差」がありそうなテーマでもありますので…

classingkenji.hatenablog.com

著者のブログを拝見すると、コロナ禍の下でも「フィールドワーク」を完全に休止しているわけではないようです。記事で指摘している通り、昨今の状況は「居酒屋の戦後史」の大きな転換点になっていくでしょう。家飲みが増え、「オンライン飲み会」も話題になりました。その反面、居酒屋店舗数の減少傾向が加速したことは間違いありません。そしてそれは、著者の言う酒文化の継承にとって、危機的な状況であるはずです。コロナ後の酒文化がどうなっていくのか、続編に期待したいです。

 

 

 

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*1:高所得層になるにつれてワインの消費が顕著に増え、最貧困層発泡酒も飲めない