ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
- 作者: 水島治郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/12/19
- メディア: 新書
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まずポピュリズムを「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」と定義し、その草創期から格差拡大による不満が原動力であったことを紹介しています。そしてそれが戦後の福祉国家体制の崩壊と軌を一にしてまた盛り上がっているのが今、というのが私の解釈なので須賀、(それはひとまずさておき)この本では、政教分離などの「リベラルな近代的価値」を盾に、国民投票などの「デモクラティックな手段」を矛に台頭しているのが西欧における今日の特徴だとしています。また、ベルギーなどの事例を挙げながら、ポピュリズム政党の台頭が似たり寄ったりになった既成政党ではすくい上げられない世論を代表し、さらには既成政党に自己改革を迫ることで政治を活性化する可能性がある*1ことも指摘しています。
このように豊富な事例から、そのポジティブな面も含めて客観性を持たせるべく論じているのが本書の特徴と言うべきで生姜、「近代的価値に反するムスリムは排撃すべきだ」という「尤もらしく聞こえる」主張が本当に「尤もな」ものなのか、そこについてはもうちょっと掘り下げてもよかったように思います。私の考えでは、信教の自由やそれに密接に関わる表現の自由を尊重しないことがリベラルと呼べるはずがないので須賀、そんなことを言う人は現地にも多分いくらでもいるわけで、その辺の議論がどうなっているのかは知りたかったです。そこが、ポピュリズム政党の側のリベラルな価値に対する本気度を浮き彫りにするような気がしますので。
昨年末に出版されたこの本では、イギリスのEU離脱とアメリカのトランプ当選まで言及されているので須賀、やはり連想して考えてしまうのは日本のことでした。指摘されているように、西欧型ポピュリズムの特徴である福祉排外主義は日本の「生保」批判(生活保護なめんな)と親和的であると言えるでしょうし、社会経済的にポピュリズム勢力が支持を広げるポテンシャルは高まっているように見えま須賀、じゃあ維新がその受け皿になっているかと言われると、必ずしもそうでもないと感じます。昨今国論を分けた安保法や共謀罪などでは、社会的エリート(学者やマスコミ)への反感が逆バネのように機能した部分はありそうで須賀、日本最強の既成政党に君臨し、大企業優遇の政策を進める安倍政権がその役割を担っているとすれば、それはどうしたことなのでしょうか。かつて安保法を巡って、安倍政治は「憲政の常道」に反したモラルハザード政治だと言ったことがありましたが、これまでの政治エリートたちが重んじてきた政権運営上の慣例や手順*2を軽やかに無視してしまう*3姿勢が、かなり倒錯を孕んではいま須賀、ある意味「ポピュリズム的」であるのかもしれません。
著者は本の中で、こんな研究を紹介しています*4。
他方、ポピュリズム政党が政権を獲得した場合、特にそれが安定的なデモクラシーを実現していない国の場合には、ポピュリズム政党はデモクラシーに対する脅威として立ち現れる。立憲主義を否定して権威主義的統治を断行することで、むしろデモクラシーの質を貶める危険があるという。