かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『親米と反米』(吉見俊哉)

親米と反米―戦後日本の政治的無意識 (岩波新書)

親米と反米―戦後日本の政治的無意識 (岩波新書)

幕末から高度成長期前後までの、日本におけるアメリカ理解や受容、ないし反発の歴史を紐解いた本です。タイトルこそ「親米と反米」となっていま須賀、著者は「『親米』と『反米』の二項対立を内破」するという狙いを繰り返し述べており、この本の議論の中では豊富で興味深い事例を駆使し、それに一定程度以上成功していると思います。昔ここでも触れたことのある昭和天皇マッカーサーのツーショット写真が、当時必ずしも屈辱的な「敗戦のシンボル」として捉えられていたわけではないことなどは、その好例ではないでしょうか。
一方で、日本の家電技術と伝統的美意識などを結び付けるような技術主義的なナショナル・アイデンティティの構築についても言及がなされていたので須賀、その出典の多くが松下電器に関するものであったことは多少気になりました。あまりイメージだけで言い立てるのも好ましくないとは思いま須賀、日本の家電業界全体の傾向のみならず、松下電器という個別の一企業の問題*1として検討していく価値は十分にあったのではないかと思います。
好きか嫌いか。この本の中でなされていたのは、わかりやすいけど危うさも潜むこの二分法を超えるための「解体作業」だったように思います。アメリカが今後どう認識され、語られていくのか。そのことを考えていく上で、歴史を知るという面でも方法論の面でも有益な議論なのではないでしょうか。もちろんその問いは、もはや、と言うより室伏高信が「アメリカ的でない日本がどこにあるか」と喝破した80年以上前から、アメリカだけに関するものではありません。

*1:悪いと言っているわけではなくて