かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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親子の2019年8・9月読書「月間賞」

長男は2カ月まとめてこれでよいと思います。

ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)

ドラえもん (1) (てんとう虫コミックス)

 

これまたかつて細君が収集していたもので、ここでは1巻を挙げましたが手当たり次第に読んでいます。先日も「人生やり直し機は何巻だっけ?」とか言いながらマンガ本をひっくり返していました。マンガにも素敵な作品はいっぱいあると思いますけど、バランスを取ってより字が多い本にも親しんでいってほしいなあと思っています。

 

私はこちらに。

◆8月

canarykanariiya.hatenadiary.jp

時事性が高いながらも、全体状況も踏まえた議論になっていたかと思います。

◆9月

canarykanariiya.hatenadiary.jp

酔ったノリなんだけれども、それだけではないということも非常によく伝わってきます。

 

 

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「炎上商法」としてのダメ虎?/『虎とバット』(ウィリアム・ケリー)

 

虎とバット 阪神タイガースの社会人類学

虎とバット 阪神タイガースの社会人類学

 

なぜ阪神タイガースは弱いのに人気なのか?米国の人類学者が、いわゆる阪神の「暗黒時代」のフィールドワークを通じて分析した本です。

著者は、選手、監督などのスタッフ、フロントと親会社、応援団などのファン、スポーツ紙を中心とするマスコミ…といったアクターについて紹介しつつ、これらが相互に絡み合った集合的な存在「スポーツワールド」を形成していると論じます。その複雑なスポーツワールドにおいては「職場のトラブル」「(東京に対する)二番手の苦悩」にまつわる「ソープオペラ(昼ドラ)」的な展開があり、複雑さゆえの責任の不明確さがある。それらが「ダメ虎」の魅力なのだ、と著者は述べています。

プロスポーツチームをかなり多角的に分析し、その複雑さを複雑なものとして受け止めて論じている点は、しっかりした調査だなと感じました。負けっぷりや内紛を含めたコテコテ感*1と、アンチ中央(≒アンチ巨人)的な感情が支持の源である、という主張も結論としては妥当だと感じました。

ただその一方で、「スポーツワールド」や「ソープオペラ」という用語がややマジックワードっぽいかなと感じました(特に前者)。いろんなものが複雑に絡み合っています、という状況説明の先が展開として弱かったというかよく飲み込めなかったというか、厳しく言えばso what?感がありました。

 

 

著者は、彼が自身の断続的なフィールドワークを終えた2003年を境に、阪神タイガースというスポーツワールドの構造的変化が始まったと指摘します。この2003年ー1985年以来のリーグ優勝を果たした年で須賀ーは、私にとっても転機の年でした。ラジオの向こうで大騒ぎしたこの年から一転、翌年から大学生になった私は、夜にテレビやラジオの前で過ごすことも減り、自然とプロ野球から関心が遠ざかっていきました。

奇しくも昨今、ちょうどその年に入団し、衆目一致でタイガースの顔となった選手の処遇を巡る議論が「タイガースワールド」を賑わせています。

www.j-cast.com

記事にあるような経緯や、それに対して巻き起こった反響や批判は、まさに「タイガースワールドらしい」と著者は論じるでしょうし、実際のところ、多分にそうなのだと思います。今風かつ乱暴に言ってしまえば「炎上商法」的な側面もあるのかもしれません。ただ、この本に挙げられているような要因でスポーツワールドが変化しているのだとすれば、(意図した結果であるかはともかく)それがこれまでのように阪神タイガースというチームへの関心を引き続けることにプラスに働くかは明らかではありません。

まどろっこしい言い方になってしまったかもしれませんが、高額の年俸を払っている以上、成績への評価は評価としてあってよいと思う一方、「引退勧告」みたいな妙な浪花節でなく、もっと普通に来季の戦力としてどうみなすのかを明らかにすればよかったのではないかと思います。

ついでに言うと、来季のコーチ陣に関するこのニュースも気になっています。

www.google.co.jp

今季、これから引退表明しなければ、来季の球界現役最年長はドメス福留になるはずです。井上一樹は彼と同郷かつ元チームメイトです。猫の首に鈴をつけるようなニュアンスもあるのかな、と一瞬勘ぐってしまいましたが、何にせよ、こちらも穏便な展開を望みたいです。

とりあえず今季も実はまだCS消えてないので、鳥谷のためにも粘り倒してください。

 

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*1:「愛すべき負け犬」という表現には思わず膝を打ってしまいましたwww

『北朝鮮と観光』(礒﨑敦仁)

 

北朝鮮と観光

北朝鮮と観光

 

北朝鮮と観光について、北朝鮮政治を専門とする研究者が論じた本です。具体的には、北朝鮮観光の歴史や金正恩体制下の観光政策、パンフレットやガイドブックで見る北朝鮮観光、主に韓国人による開城観光の顛末などが紹介されています。

日本人観光客の受け入れが始まった1987年以降、政治情勢の影響などによる中断を挟みながら展開されてきたこと、外貨獲得が重要な目的でありながらも体制の宣伝に主眼が置かれ、体制維持への配慮がより重視されてきたとみられることなど、北朝鮮×観光という切り口で見ればこその知見が多くありました。一方で、かなり抑制的・概観的に書かれている印象が強く、もっとディテールに触れていれば内容豊かな議論になったのではないかなという気がしました(敢えてそうしていないようにも見えましたが…)。

かくいう私も、「旅行記が濫立した2000年代」にネット上に北朝鮮旅行記を公開した一人でして、各章の記述を懐かしく読みました。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

こうした個別の経験に全体的な見取り図を与えてくれる本でしたが、そうした個別の事象への愛をもう少し滲ませてくれてもよかったのにと、同じ訪朝経験者としては思いました。

 

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『「学力」の経済学』(中室牧子)

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

教育政策に実験とデータ分析による科学的根拠(エビデンス)を反映させる重要性について、国内外の具体的な研究結果を紹介しながら論じた本です。ちょっと前にいろんな反響があった本だそうですね。

子供へのご褒美や生活習慣、非認知能力、少人数学級の効果、教員の質の影響などに関する多くの研究結果が挙げられていて興味深かったです。

一方で著者は、少なくないテーマにおいて政策の「効果」を子供の学力の向上や生涯年収の向上と定義づけ、その「費用対効果」に基づいて教育政策を決定せよと主張します。学問的手法として教育の「投資効果」を計算されるのは結構なことだと思いま須賀、その算盤勘定だけで学校のあり方や先生の言うことが変わってしまうとしたら、子供に対してはとても気の毒なことだと思います。

これらの研究結果から先の、そこからどんな主張に結びつけるかという部分の問題として、「教育は受けた子供の生涯年収を上げることが最大の使命だ」というのは、やや一面的な議論だと思います。

もっと具体的な内容に関する批判も見つけましたので、最後にご紹介させていただきます。

garnet.cocolog-nifty.com

 

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密造酒と密輸入酒の思い出/『イスラム飲酒紀行』(高野秀行)

 

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

 

酒飲みを自称する著者が、チュニジアアフガニスタン、マレーシア、イラン、トルコ、シリアからソマリランドまで、イスラム圏各国で出会った人々と酒について語った一冊です。

私はアル中というわけではありませんが、中東のイスラム圏の国々を何度か訪ねたことがあり、楽しく読むことができました。

特に感慨深かったのはイランでした。私は著者のように酒を探し回ったりしませんでしたけれども、ちゃっかり現地の方の家に上がり込んで、密造酒を飲ませてもらったりトルコから密輸入したビールを頂戴したりしました。その時の酒の味…は覚えているようで覚えていないんですけど、その時話したことや、出会った皆さんとの交誼はありありと思い出され、本当に懐かしい気持ちになりました。

そうなんです。酒の話は酒の話で面白いんですけど、やはりそこには現地の人とのやりとりや、生活の息遣いがあるんですよね。特に飲酒が建前上、禁止されている地域であれば、そのコミュニケーションは建前と本音を上手く使い分けたものにならざるを得ません。その辺の機微ーしっかりした前提知識に基づく駆け引きや読者への説明ーがこの本の面白さだろうと思います。

最近、旅行でも読書でもイスラム圏から遠ざかってしまっている気がします。次は久々に、また中東方面に行きたいなあ。

 

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『幼児期と社会1』(エリク・エリクソン)

 

幼児期と社会 1

幼児期と社会 1

 

人間の心理社会的発達に関する著名な本です。フロイトの影響のもと、幼児の症例やネイティブアメリカンの幼児期、有名な8つの発達段階などについて論じています。

友人との読書会で扱いまして、そこでも話したので須賀、私は2つの理由で、この本の内容は「そんな解釈もあるんだな」くらいの受け止め方がいいのかなという気がしました。まずは会でも指摘があった通り、フロイト的な論理展開がかなり多く、それが因果関係などの論証として十分なのかは留保をつけた方がよいと思えたのが一つ。そしてもう一つは、あまりこの本の内容を「真に受けて」心配し過ぎると、子供とどう接していいか分からなくなってしまいそうな気がした点です。こう接してはいけない、こういう印象を与えてしまうとリスクがある、などと考え出してしまうと(私は考え出してしまいやすいので)、身動きが取れなくなってしまいそうです。

個人的にも、生後すぐに開腹手術をして特に幼児期に便秘気味であったことと、ものを溜め込んだり蓄積したりするのが好きな現在に連なる性質の間には関係がある、と言われるとまあそうなのかもなと思わなくもありません。全然メチャクチャなことが書いてある、という趣旨ではありませんが、適度な距離感を保って接したい知見だと感じています。

 

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『知りたくなる韓国』(新城道彦、浅羽祐樹、金香男、春木育美)

 

知りたくなる韓国

知りたくなる韓国

 

歴史、政治、社会、文化など、幅広い分野で「韓国の現在地」を紹介する本です。日頃の報道などではなかなか出てこない、韓国を知る上での前提条件になるような内容が多く収められています。

例えば少子化や経済格差、老後の経済的不安といった日本でも社会問題となっている現象の多くが、日本よりも苛烈に現れています。その結果、若い世代の少なからずは自国を「ヘル朝鮮」と呼んで絶望し、子供が海外で活躍できるよう多額の教育費を投入するようになっているというのです。単純比較は難しい問題で須賀、こうした格差や生活不安へのフラストレーションの強さは、韓国社会を見る上でかなり重要な要素であるという気がします。

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私が見た朴槿恵退陣デモも紹介されていましたが、市民の直接的行動によって民主主義を勝ち取った「成功体験」とともに、プッシュ要因とプル要因のような形でこうした現象も理解できるのかもしれません。

こうしてみると日韓は社会課題という意味でもかなり共有しているとも言えるわけで、お互いの知見を生かしあえるような、前向きな関係が築ければ利益もあると思うので須賀…

やや時事的で「腐りやすい」内容を扱っている難しさはありま須賀、テーマの「横の広さ」でうまく韓国やそこに住む人々の生活を描けている本だと思います。

 

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