北朝鮮と観光について、北朝鮮政治を専門とする研究者が論じた本です。具体的には、北朝鮮観光の歴史や金正恩体制下の観光政策、パンフレットやガイドブックで見る北朝鮮観光、主に韓国人による開城観光の顛末などが紹介されています。
日本人観光客の受け入れが始まった1987年以降、政治情勢の影響などによる中断を挟みながら展開されてきたこと、外貨獲得が重要な目的でありながらも体制の宣伝に主眼が置かれ、体制維持への配慮がより重視されてきたとみられることなど、北朝鮮×観光という切り口で見ればこその知見が多くありました。一方で、かなり抑制的・概観的に書かれている印象が強く、もっとディテールに触れていれば内容豊かな議論になったのではないかなという気がしました(敢えてそうしていないようにも見えましたが…)。
かくいう私も、「旅行記が濫立した2000年代」にネット上に北朝鮮旅行記を公開した一人でして、各章の記述を懐かしく読みました。
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こうした個別の経験に全体的な見取り図を与えてくれる本でしたが、そうした個別の事象への愛をもう少し滲ませてくれてもよかったのにと、同じ訪朝経験者としては思いました。