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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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「炎上商法」としてのダメ虎?/『虎とバット』(ウィリアム・ケリー)

 

虎とバット 阪神タイガースの社会人類学

虎とバット 阪神タイガースの社会人類学

 

なぜ阪神タイガースは弱いのに人気なのか?米国の人類学者が、いわゆる阪神の「暗黒時代」のフィールドワークを通じて分析した本です。

著者は、選手、監督などのスタッフ、フロントと親会社、応援団などのファン、スポーツ紙を中心とするマスコミ…といったアクターについて紹介しつつ、これらが相互に絡み合った集合的な存在「スポーツワールド」を形成していると論じます。その複雑なスポーツワールドにおいては「職場のトラブル」「(東京に対する)二番手の苦悩」にまつわる「ソープオペラ(昼ドラ)」的な展開があり、複雑さゆえの責任の不明確さがある。それらが「ダメ虎」の魅力なのだ、と著者は述べています。

プロスポーツチームをかなり多角的に分析し、その複雑さを複雑なものとして受け止めて論じている点は、しっかりした調査だなと感じました。負けっぷりや内紛を含めたコテコテ感*1と、アンチ中央(≒アンチ巨人)的な感情が支持の源である、という主張も結論としては妥当だと感じました。

ただその一方で、「スポーツワールド」や「ソープオペラ」という用語がややマジックワードっぽいかなと感じました(特に前者)。いろんなものが複雑に絡み合っています、という状況説明の先が展開として弱かったというかよく飲み込めなかったというか、厳しく言えばso what?感がありました。

 

 

著者は、彼が自身の断続的なフィールドワークを終えた2003年を境に、阪神タイガースというスポーツワールドの構造的変化が始まったと指摘します。この2003年ー1985年以来のリーグ優勝を果たした年で須賀ーは、私にとっても転機の年でした。ラジオの向こうで大騒ぎしたこの年から一転、翌年から大学生になった私は、夜にテレビやラジオの前で過ごすことも減り、自然とプロ野球から関心が遠ざかっていきました。

奇しくも昨今、ちょうどその年に入団し、衆目一致でタイガースの顔となった選手の処遇を巡る議論が「タイガースワールド」を賑わせています。

www.j-cast.com

記事にあるような経緯や、それに対して巻き起こった反響や批判は、まさに「タイガースワールドらしい」と著者は論じるでしょうし、実際のところ、多分にそうなのだと思います。今風かつ乱暴に言ってしまえば「炎上商法」的な側面もあるのかもしれません。ただ、この本に挙げられているような要因でスポーツワールドが変化しているのだとすれば、(意図した結果であるかはともかく)それがこれまでのように阪神タイガースというチームへの関心を引き続けることにプラスに働くかは明らかではありません。

まどろっこしい言い方になってしまったかもしれませんが、高額の年俸を払っている以上、成績への評価は評価としてあってよいと思う一方、「引退勧告」みたいな妙な浪花節でなく、もっと普通に来季の戦力としてどうみなすのかを明らかにすればよかったのではないかと思います。

ついでに言うと、来季のコーチ陣に関するこのニュースも気になっています。

www.google.co.jp

今季、これから引退表明しなければ、来季の球界現役最年長はドメス福留になるはずです。井上一樹は彼と同郷かつ元チームメイトです。猫の首に鈴をつけるようなニュアンスもあるのかな、と一瞬勘ぐってしまいましたが、何にせよ、こちらも穏便な展開を望みたいです。

とりあえず今季も実はまだCS消えてないので、鳥谷のためにも粘り倒してください。

 

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*1:「愛すべき負け犬」という表現には思わず膝を打ってしまいましたwww