かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『「学力」の経済学』(中室牧子)

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

教育政策に実験とデータ分析による科学的根拠(エビデンス)を反映させる重要性について、国内外の具体的な研究結果を紹介しながら論じた本です。ちょっと前にいろんな反響があった本だそうですね。

子供へのご褒美や生活習慣、非認知能力、少人数学級の効果、教員の質の影響などに関する多くの研究結果が挙げられていて興味深かったです。

一方で著者は、少なくないテーマにおいて政策の「効果」を子供の学力の向上や生涯年収の向上と定義づけ、その「費用対効果」に基づいて教育政策を決定せよと主張します。学問的手法として教育の「投資効果」を計算されるのは結構なことだと思いま須賀、その算盤勘定だけで学校のあり方や先生の言うことが変わってしまうとしたら、子供に対してはとても気の毒なことだと思います。

これらの研究結果から先の、そこからどんな主張に結びつけるかという部分の問題として、「教育は受けた子供の生涯年収を上げることが最大の使命だ」というのは、やや一面的な議論だと思います。

もっと具体的な内容に関する批判も見つけましたので、最後にご紹介させていただきます。

garnet.cocolog-nifty.com

 

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密造酒と密輸入酒の思い出/『イスラム飲酒紀行』(高野秀行)

 

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

イスラム飲酒紀行 (講談社文庫)

 

酒飲みを自称する著者が、チュニジアアフガニスタン、マレーシア、イラン、トルコ、シリアからソマリランドまで、イスラム圏各国で出会った人々と酒について語った一冊です。

私はアル中というわけではありませんが、中東のイスラム圏の国々を何度か訪ねたことがあり、楽しく読むことができました。

特に感慨深かったのはイランでした。私は著者のように酒を探し回ったりしませんでしたけれども、ちゃっかり現地の方の家に上がり込んで、密造酒を飲ませてもらったりトルコから密輸入したビールを頂戴したりしました。その時の酒の味…は覚えているようで覚えていないんですけど、その時話したことや、出会った皆さんとの交誼はありありと思い出され、本当に懐かしい気持ちになりました。

そうなんです。酒の話は酒の話で面白いんですけど、やはりそこには現地の人とのやりとりや、生活の息遣いがあるんですよね。特に飲酒が建前上、禁止されている地域であれば、そのコミュニケーションは建前と本音を上手く使い分けたものにならざるを得ません。その辺の機微ーしっかりした前提知識に基づく駆け引きや読者への説明ーがこの本の面白さだろうと思います。

最近、旅行でも読書でもイスラム圏から遠ざかってしまっている気がします。次は久々に、また中東方面に行きたいなあ。

 

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『幼児期と社会1』(エリク・エリクソン)

 

幼児期と社会 1

幼児期と社会 1

 

人間の心理社会的発達に関する著名な本です。フロイトの影響のもと、幼児の症例やネイティブアメリカンの幼児期、有名な8つの発達段階などについて論じています。

友人との読書会で扱いまして、そこでも話したので須賀、私は2つの理由で、この本の内容は「そんな解釈もあるんだな」くらいの受け止め方がいいのかなという気がしました。まずは会でも指摘があった通り、フロイト的な論理展開がかなり多く、それが因果関係などの論証として十分なのかは留保をつけた方がよいと思えたのが一つ。そしてもう一つは、あまりこの本の内容を「真に受けて」心配し過ぎると、子供とどう接していいか分からなくなってしまいそうな気がした点です。こう接してはいけない、こういう印象を与えてしまうとリスクがある、などと考え出してしまうと(私は考え出してしまいやすいので)、身動きが取れなくなってしまいそうです。

個人的にも、生後すぐに開腹手術をして特に幼児期に便秘気味であったことと、ものを溜め込んだり蓄積したりするのが好きな現在に連なる性質の間には関係がある、と言われるとまあそうなのかもなと思わなくもありません。全然メチャクチャなことが書いてある、という趣旨ではありませんが、適度な距離感を保って接したい知見だと感じています。

 

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『知りたくなる韓国』(新城道彦、浅羽祐樹、金香男、春木育美)

 

知りたくなる韓国

知りたくなる韓国

 

歴史、政治、社会、文化など、幅広い分野で「韓国の現在地」を紹介する本です。日頃の報道などではなかなか出てこない、韓国を知る上での前提条件になるような内容が多く収められています。

例えば少子化や経済格差、老後の経済的不安といった日本でも社会問題となっている現象の多くが、日本よりも苛烈に現れています。その結果、若い世代の少なからずは自国を「ヘル朝鮮」と呼んで絶望し、子供が海外で活躍できるよう多額の教育費を投入するようになっているというのです。単純比較は難しい問題で須賀、こうした格差や生活不安へのフラストレーションの強さは、韓国社会を見る上でかなり重要な要素であるという気がします。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

私が見た朴槿恵退陣デモも紹介されていましたが、市民の直接的行動によって民主主義を勝ち取った「成功体験」とともに、プッシュ要因とプル要因のような形でこうした現象も理解できるのかもしれません。

こうしてみると日韓は社会課題という意味でもかなり共有しているとも言えるわけで、お互いの知見を生かしあえるような、前向きな関係が築ければ利益もあると思うので須賀…

やや時事的で「腐りやすい」内容を扱っている難しさはありま須賀、テーマの「横の広さ」でうまく韓国やそこに住む人々の生活を描けている本だと思います。

 

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宇宙人が投げる隕石/長男言行録最終回(5歳0・1カ月)

彼も5歳になりましたので、このコーナーはこの辺でおしまいにしておいた方がお互いのためであるような気がしているので須賀、最後にネタを2つ。

「白いパンツを履いている時に、うんちをするべきじゃなかった」

これは保育園で用を足した時に、お尻を拭くのが不十分だったことがありまして、ちょっとですけど、パンツが汚れてしまっていたんですね。私が叱ったというよりは、お気に入りのキャラクターが描かれた下着だったので、本人のショックが大きかったようです…

まあ確かに、用を足さなければ白いパンツが汚れるリスクはないですし、例えば黒いパンツなら多少汚れてしまっても(清潔かどうかは別問題として)目立ちはしません。その意味で話の筋は通っているので須賀、流石にそれは、この問題の解決法としては妥当ではないでしょう(笑)

子供の発言なら笑って他の解決策を提案できますけど、たまに大人の世界にもこういう論法が出てくることがあるので、注意したいなと思いました。

 

もう一つは細君からの又聞きなので須賀、こんなことを言ったそうです。

隕石は、宇宙人が投げるの?

たまたま恐竜についてのマンガを読んでいた時期に、テレビで恐竜の絶滅についてやっていたのを見て母親にこう尋ねたのだそうです。微笑ましいですね。ただ極端な話、本当にそういう隕石もあるかもしれませんよね。太陽系の外に飛んで行った探査機だって、地球外生命体からすればまさに「地球人が投げた金属塊」でしょうから。

 

冒頭で申し上げた通り、もう一丁前の少年である長男の言動を父親の恣意でつまみ食いするのは終わりにしようと思います。いつか本人と、笑ってこのコーナーを見返せる日が来るのを楽しみにしています。

 

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読破は一日にして成らず/『ローマ人の物語1』(塩野七生)

 

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) (新潮文庫)

 

第1巻を楽しく読ませていただきましたが、2巻目以降はまた気が向いたら読むことにしました。

中学生の頃ほど「歴史小説を読むくらいなら、史実(と目される内容)が書いてある専門書を読んだ方がいい」と思うわけではありません*1が、読み切るのにどのくらいの期間がかかるかなと考えた時に、今は本棚にある別の本を先に読みたいと思うに至りました。

専門書もそうですけど、小説も歴史に対する切り口や解釈がないとまとまったものは書けないはずで、その点でも『ローマ人の物語』は面白そうだとは思います。ただやはり、読破するのも「一日にして成らず」感は強かったです…

saavedra.hatenablog.com

たまたまこんな記事も見つけて読ませていただきまして、ここに紹介されている本を読んで気分が乗ってきたら、いつか読んでみようかなと思います。

 

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*1:最近司馬遼太郎ばかり読んでいる

『「右翼」の戦後史』(安田浩一)

 

「右翼」の戦後史 (講談社現代新書)

「右翼」の戦後史 (講談社現代新書)

 

当事者らへのインタビューを交え、終戦前後から現在までに至る「右翼」の諸潮流の歴史を紐解いた本です。

終戦後に集団自殺*1をした人達や、反共のために親米に立ち位置を取り、権力からの働きかけもあって自民党を支える動きを取った例えば「行動右翼*2達、「新左翼」と反響し合いながら「親米右翼」への異議申し立てを続けたいわゆる「新右翼」、宗教右派の流れから草の根の元号法制化運動を成功させ、現在の日本会議に連なる潮流、そしてついには既存の右翼を併呑ようにすらなった「ネット右翼」など、「右翼」というワードに括られる人達の多様な思想やありようを描写しています。各勢力の系統関係・人間関係が押さえられていて、教科書的な戦後史では断片的にしか見えない繋がりを知ることができた気がします。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

著名な著作である『ネットと愛国』でも描き出しているように、「一見普通の人」がヘイトクライムを起こし、中央省庁までもがヘイトスピーチを「尊重すべきご意見」として承る今、社会そのものが極右化している、と著者は喝破します。政権がそうした感情を利用して隣国との相互依存関係を破壊し、それが社会に反響して露骨な嫌悪表現が蔓延るー。この1ヶ月ほどの間に日本で起こっていることも、この「社会の極右化」を非常に端的に示しているように思えます。

 

いつもありがとうございます。 

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*1:敢えて自決とは言いません

*2:街宣車から演説や軍歌を流すなど、示威行為を重んずる