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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『考古学講義』(北條芳隆編)・『新版 日本人になった祖先たち』(篠田謙一)/いい意味で教科書を書き換える成果に期待

 

考古学講義 (ちくま新書)

考古学講義 (ちくま新書)

 

今さらシリーズの評判を聞きつけ、大人買いして読んでみました。

www.chikumashobo.co.jp

この『考古学講義』の各論文では、縄文時代のクリやダイズ栽培や、紀元前8世紀が有力視されつつある弥生時代の開始年代、青銅器・玉製品・鉄器・鏡といった出土品みる弥生・古墳時代、そして一大論争を巻き起こした騎馬民族征服説といった様々なテーマについて、現在の研究の到達点を紹介しています。詳述は避けま須賀、2つのポイントに着目したいと思います。

一つは、先ほど挙げた様々な出土品の状況などが、当時の交易の展開や畿内政権の形成について多くのことを示唆していそうだということです。古くは縄文時代から、日本列島の内外で多元的な交易ネットワークが機能してきました。北部九州から大陸へ、あるいは山陰、北陸などへ至る日本海ルートはその典型例でしたが、4世紀頃には畿内の政治権力が対外ルートを掌握し*1、各地の有力者たちは「盟主」たる畿内政権を通じて舶来品の玉製品や鏡を貰い受け、前方後円墳を築くようになっていったようです。本当にひとまとめにして言えば、そんな青写真が描けそうです。

もう一つは、考古学と他の学問分野との「連携」の進展です。放射性炭素年代測定や気候変動と絡めた分析、そして出土した古人骨の遺伝子解析が進んだことで、それらの合わせ技で多くのことが分かるようになってきました。

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 (NHKブックス No.1255)

  • 作者:篠田 謙一
  • 発売日: 2019/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

こちらが、その分子人類学の近年の知見をまとめた本です。著者によると、アフリカから南アジアを経て東南アジアから流入した人々と、中東経由で北寄りに向かい、北から日本列島にやってきた人々が縄文人の基層をなし、そこに東アジアに広がる遺伝子の型を持つ農耕民が混じり合ったーというのが、現時点であり得そうなストーリーなのだそうです。

その意味では、在来の「縄文人」と渡来した「弥生人」が混じり合ったとする二重構造説は全く的外れではなさそうで須賀、アイヌの人々がオホーツク文化を担った北方の集団の遺伝的影響を受けていることなど、(日本列島という括りで言えば)周辺に位置する集団と近隣他地域の交流を見落としている点は問題だと指摘しています。

こちらも広範な議論が展開されていて、なかなか全体の論旨を紹介することはできませんが、同じ著者の別の本のレビューや、外部の記事もありましたので載せておきます。後者は記事体広告で須賀、図表がイメージを掴みやすかったので貼りました。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

mycode.jp

こうした分子人類学と考古学の成果を重ね合わせると、一つの遺跡にまつわる歴史がより立体的に立ち現れます。偶然で生姜、2冊ともに弥生時代の青谷上寺地遺跡(鳥取県)について言及しています。『考古学講義』では、出土品などから北陸などの産品を取りまとめて朝鮮半島直接交易する一大拠点として紹介されており、『日本人になった祖先たち』では、「北部九州から離れているにもかかわらず」弥生時代になって日本列島にもたらされた遺伝子の系統を持つ人骨が多かった、とされています。後者は分析前の仮説とは異なる結果だったようで須賀、これらの見解を並べてみれば、一つの整合的なストーリーを描くことはそう難しくありませんし、恒常的な交易関係が遺伝的な交流にまで達したことをも想像させます。

特に分子人類学の側では、今も急速に研究が進展しているそうです。考古学と言えば「ゴッドハンド」の捏造事件を忘れることはできませんが、これからは各学問分野の相互作用の中で、いい意味で「教科書が書き換えられる」ことを期待したいです。

 

 

 

 

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*1:世界遺産になった「沖ノ島」祭祀も畿内政権の関与があったとされます