- 作者: ドンオーバードーファー,Don Oberdorfer,菱木一美
- 出版社/メーカー: 共同通信社
- 発売日: 2002/02
- メディア: 単行本
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著者自身がアメリカの新聞記者であった*1こともあってか、朝鮮半島と米国、特に米韓関係に主軸を置いた分析・記述が中心になっています。
そこでいくと、米国が韓国への影響力を行使してその(アクターの)「望ましくない」行動を変えられた場合(=政治学で言うところの「権力」を行使し得た場合)とそうでないものとの違いは、興味深いものが出てきます。例えば朴正熙による核開発や、全斗煥時代に焦点化した金大中処刑については、結果的に米国の意向が実現された*2半面、それぞれが維新体制なる強権政治を始めたり、クーデターを経て政権を握ったりという事態に対しては、米国は内心それをよく思ってはいないものの、「そんな政権を認めない」とまでは言うことができないんですね。これにはそれぞれに個別の事情が大きく作用しているでしょう。例えば金大中の死刑執行については、「全斗煥はもともとレーガン訪韓との取引材料にしようとしていた」と著者は指摘していますし、そもそも核不拡散というのは米国外交における超重要課題です。加えて、その時々の米韓の政権同士の兼ね合いもあります。
なのでなかなか一概に言うのは難しいとも思うので須賀、政権の正統性や存否自体に関わる局面で韓国側アクターの「やったもの勝ち」が見られるのは、やはり南北対立という構造の影響が大きかったのでしょう。特に時代が下れば下るほど韓国側の優位が見えてくるわけなんで須賀、それでも米韓関係が決定的に壊れてしまうと北朝鮮が何を仕掛けてくるかわからない、という要因はあったわけで*3、どんなに気に入らなくても政権そのものをひっくり返すことはできなかったということなのでしょう。一方87年の民主化運動では、米国が強権的な鎮圧をしないよう望んだのはもちろん、韓国政権内部における判断も大きかったと理解すれば整合的な理解にはなると思います*4。
重厚な本ではありま須賀、ジャーナリストの書くものらしく、総じて臨場感があって読みやすく文体も平易です。94年核危機でのカーター訪朝あたりが一つの見せ場ではありま須賀、個人的には朴正熙vsカーターのピリピリ首脳会談や同じカーターの在韓米軍撤退計画の経過、これまた同じ朴正熙が「核開発に成功したらそれと引き換えに大統領を辞任する」と言ったとか言わないとかみたいな話の方が個人的には面白かったですね。単に自分がよく知らなかったというだけなのかもしれませんが。