かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

写真のカラー化で蘇る記憶/『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(庭田杏珠、渡邉英徳)

 

広島を中心とした戦前・戦後の白黒写真を、AIなどでカラー化して紹介する写真集です。AIでカラー化する技術的な手法にはあまり触れられていませんが*1、ただ機械的に彩色するのではなく、その写真の持ち主に聞いたり、資料を調べたりして色を補正しているそうで、そうした地道な作業の成果が多く収められています。

広島でのプロジェクトが元になっていることから、原爆投下前の広島の街の賑わいと、あの8月6日以後の荒廃がメインテーマになっています。それのみならず、2・26事件、真珠湾攻撃沖縄戦東京大空襲、もちろん長崎、ノルマンディー上陸作戦、米国内で強制収容された日系人たちーといった歴史的事象も扱っており、ただ眺めているだけでも興味深い一冊です。

その上で、この取り組みの肝と言えるのは、「記憶の解凍」という言葉でしょう。無機質にも見えがちな白黒写真がカラーになることによって、それを見た持ち主たちの記憶も蘇るというのです。認知症を患っていた男性に、幼い頃の自分が写った写真をカラー化して見せたところ、撮影場所やその時の思い出を明瞭に語り始めたというのは、その最たる例でしょう。

今は、瞬時に写真や動画を撮って共有できるのが当たり前になっていま須賀、すぐに現像できない時代も、一般的には白黒写真しかない時代もありました。時を経て「凍結」されてしまった昔の記憶を、こうして蘇らせることができるのは素晴らしいことだと思いますし、極論すれば、白黒写真がカラー化することより、当時を知る人の記憶が少しずつでも「解凍」されることの方が重要なのだと思います。

痛ましい戦争を経験した世代の退場により、戦争の記憶が社会からも、政治からも薄れていく中、こうした取り組みが若い世代から起こっていることに感銘を受けました*2。この本でも多く紹介されているように、新聞社には古い時代の写真が比較的多く残っています。「解凍」すべき出来事の記憶が埋もれていってしまう前に、何か手を打てればいいので須賀…

 

 

ブログランキング・にほんブログ村へ

*1:そこについてもう少し知りたかった

*2:こういうこと言うのはおじさんですよねw