かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子)

 *1
日清戦争日露戦争第一次世界大戦満州事変・日中戦争、太平洋戦争という近代日本が関与した戦争*2について、内在的な視点から開戦・参戦に至るまでの経緯や背景などを考える本です。著者が鎌倉の栄光学園で行った集中講義の内容を収録したもので、対話形式で平易に読み進めることができます。またそのためか、ブックガイドとしても充実していますね。
この本の第1の特徴は、今挙げたような内在的・同時代的な視点です。歴史の教科書は、現在から見た過去として歴史を語るものが多いで須賀(それももちろん必要なことです)、この本では、戦争中やその直前の時期における為政者や市井の人々の同時代的な現状認識が多く紹介されています。例えば▽1880年代は日清勢力伯仲の時代だった▽第一次世界大戦で日本はわずかな犠牲しか払わなかったにも関わらず、対中政策での英米からの批判などにより「主観的な失敗」とみなされ、国家改造的な議論が百出した▽満州事変直前に多くの東京帝大生が満州での武力行使に賛成していた―などといった内容を、様々なデータや史料から紹介しています。
そこでやはりポイントになるのは「主権線と利益線」「満蒙は生命線だ」といったタームでしょう。主権線は即ち国境線で須賀、それ以外はまさに主観的な観念です。主権線・利益線論が近代日本のとめどない領土拡張を招いたのではないか、という話は別の本を読んだ時にしたことがある気がしま須賀、それは「日本の植民地獲得は安全保障上の戦略に貫かれている」という本書の指摘とも重なってくるわけで、ある時代の感覚を理解することの重要性はここにも表れてきているように思えます。
「戦争指導者たちの責任を問う姿勢と、自分が当時生きていたとしたら(国策で悲惨な結果を招いた)満州移民募集に加担する側に回っていたのではないかと想像してみる姿勢、その二つの姿勢をともに持ち続けることが一番大切だと思います」。講義の最後、著者はこういう趣旨の投げかけをしています。ある種の開き直りに陥らないためにも、今という時点から過去を批判的に検証することは欠かせませんが、当時の状況を内在的に見ることによって視界が開けてくることもある。一般的な言葉の使い方とは違うかもしれませんが、「通時性と共時性」を大切にして歴史を学ぶことを教えてもらった気がします。

*1:ソフトカバー版で読みました

*2:この分け方は便宜上、章立てによっています