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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『日本政治史』(北岡伸一)

日本政治史 -- 外交と権力

日本政治史 -- 外交と権力

幕末から冷戦終結までの日本の政治を、対外問題とそれへの権力の対応を中心にざっくりと概説した本です。基本的には個別の論点に深入りはしませんので、読み応えという意味ではイマイチかもしれませんが、平明に書かれています。
外交を中心に日本近代史を語る上で、その過程を言い表すのに最も象徴的なのは、第一議会で山県有朋首相が述べた「主権線」と「利益線」にまつわる有名な主張でしょう。日本の安全保障に密接に関わるとして、まず朝鮮半島の外に利益線を引き、半島への他国の影響力を排除する過程で主権線の中に組み込む。すると半島の北に広がる(南)満州が気になり始めて、いつの間にか「満蒙は我国の生命線」なんて議論が登場。結局ホントに関東軍の暴走を追認する形で実質的な主権線下に置いてしまいました。そして今度は満州の安全のために華北自治工作を…と、このループの延長線上にあったのが、太平洋戦争と大日本帝国の破綻だったと捉えることができると思います。
その過程にある程度の一貫性*1を見るならば、「日露戦争は日本にとっても近代を二分する大事件であった。それまでの日本の課題は対外的独立の完成であった。それを最終的に達成したのが、日露戦争であった」という本文のような見解にはならないような気がします。ただその舞台が朝鮮半島を出たという話であって、さまざまな外交的過程を経ながらも、利益線を主権線に置き換え、さらにその外に新しい利益線を設定する雪だるま式の構図が大きく変わったわけではないのではないでしょうか。いずれにせよ、私はこの本を読んでも、交戦国以外の第三国でドンパチやって、さらに別の国を影響下に置きましたという戦争を以て「対外的独立の完成」とはどういうことだという疑念を拭うことはできませんでした。
個人的に言えば、山県閥について書かされたのを懐かしく思い出します。

*1:「一貫」と言えるようなものでもない気がしま須賀