- 作者: 井上寿一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/11/15
- メディア: 新書
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オチから言ってしまうと、この戦争調査会は戦勝国などからなる対日理事会に「目を付けられて」、事業として未完のまま廃止されてしまいます。それはオーストラリア、次いでソ連が「戦争調査会には戦争責任を負うべき軍人も含まれている。戦争の自己総括と言いながら、『次の戦争に勝つ』ための調査会なのではないか」などと廃止を主張し、アメリカもそれを無視できなくなったためなので須賀、ここにこそ戦争を総括することの難しさが凝縮されていると感じました。戦争をしたことがいけなかったのか、戦争に負けたことがいけなかったのか。特に太平洋戦争については、『失敗の本質』に言及があったように、アメリカ相手に戦争を始めたことが最大の敗因だったことは否定し得ないわけで、特に不幸なことに、この両者は錯綜してしまうのです。
実態としては「再び戦争をしないためにその原因を追究する場」であるという認識が大勢になっていくので須賀、結果として、顕在化する米ソ冷戦など国際社会のパワーポリティクスに揉まれ、最後の総会すら開かれずに解散されます。ここには、まさに同時並行で戦勝国が戦争責任を追及する東京裁判が行われていた、ということも影を落としているでしょう。主権国家としての独立を失った特異な状況下で、尻切れトンボにはなってしまったわけで須賀、日本側の発意でこうした検証が目指されたことは記憶されてもよいと思います。
以上がこの本の前半部分のレビューです。後半では、戦争調査会が集めた資料や行った聞き取りから戦争の原因を探るという、著者が調査会のバトンを引き継ぐような仕事の成果がまとめられており、こちらも興味深いです。ターニングポイントがどこだったのかという議論が主なので須賀、「国民政府を対手とせず」とか二度にわたる仏印進駐とか、近衛内閣下の挙動が大きいんですよね。まあもちろん、彼一人の責任だなんてことはありえないんですけど…