- 作者: ジョセフ・S.ナイジュニア,デイヴィッド・A.ウェルチ,田中明彦,村田晃嗣
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2013/04/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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最初にリアリズム、リベラリズム、コンストラクティズム(構成主義)といった国際政治に対する大きな理論や、用いられる諸概念*1など理論的な議論を紹介した後、それらを武器にウェストファリアから冷戦後までの国際政治史を概観。現代まで来たところで相互依存やグローバル化など今日的な諸現象・課題を論じ、未来への展望を語るという、読んでいて感心させられるほどよく構成された本だと思います。また、意図したものなのかどうなのか、例えば『国際政治学』などと比較して、いわゆるテクニカルタームが明らかに少ないというのも読みやすさの一因でしょうか。
通読して印象的だったのは、最後に著者が言っていることそのままなので須賀、最初に挙げた3つの理論全てが国際政治を理解する上で有益であり、必要であるという著者のスタンスです。「ソフトパワー」の提唱者として知られる主著者が、リアリズム、特にネオリアリズムにより批判的であることは読まずとも想像がつくことではあるので須賀、「こういう現象はリアリズムでより説明がつく」とか「今のこの地域を論ずるには複合的相互依存を無視できませんよね」といった調子で歴史上の諸事象や現代の諸課題を論じていきますので、ありがちな常套句でなく多角的な視点で、国際政治を分析する手本を見せてもらっているような気分を味わえます。
例えば、中東をリアリズムのバランスオブパワーの分析がより妥当する地域だなどとした上で、こうした地域が石油産業を支配すれば、石油をめぐる政治もリアリストの権力政治に似てくるだろう―こんな風に論じていくわけです。ここで一つ補足するならば、『独裁者のためのハンドブック』流に言うと、産油国のリーダーは「盟友集団」(側近連中など)にばらまくお金が潤沢にあるというところで専制的な体制を維持しやすいという仮説があり、ここに民主的平和論の成果などを噛ませれば、「リアリズム的世界が石油を支配すると…」という命題の前段の部分を、「産油地帯では(専制的政治体制が持続しやすいため)リアリズム的政治が繰り広げられやすく…」と因果的説明でもって言い換えることも考えられるわけです。
最後の「アメリカは帝国ではない!」的な主張は帝国という概念に何を見るかというところであって*2、あまり有益な議論ではないのかなあという気もしましたが、理論から歴史を跡づけ、また歴史から理論の特性を浮き立たせている一冊、というところで、改めて言いま須賀、よくまとまったいい本だと思います。えぇ。