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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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どちらも「悪夢」にしないために/[レビュー]『民主党政権 失敗の検証』、『自公政権とは何か』

 

自公政権とは何か (ちくま新書)

自公政権とは何か (ちくま新書)

 

実は『近現代日本を史料で読む』(御厨貴編著) - かぶとむしアル中くらいから、なんとなく日本近現代史を下ってきていたので須賀、ようやく今年の参院選直前までたどり着くことができました。

 

1冊目は書名の通り、民主党政権がなぜ短期で崩壊したのかについて、政権運営からマニフェスト子ども手当などの個別の政策に至るまで検証した本です。ただ震災対応については、出版時点では特に現在進行形の事象が多いためか触れられていませんでした。

マニフェストを掲げて台頭・政権獲得を達成した民主党でありながら、政権獲得後の政治的な破局の引き金になったのは、普天間移設や消費増税といった「マニフェストにない(そこまで踏み込むとは書いていない)首相案件」であったことなど、リアルタイムで見るのとは違う視点で、政権の全容を俯瞰することができました。

その中で印象的だったのは、随所に出てくる「民主党政権交代を実現することを優先しすぎた」という指摘でした。もともと民主党は都市型の改革政党として力をつけていきましたが、小沢一郎率いる自由党との合併後に、もともと自民党の支持層だった利益団体を切り崩す「川上戦略」で参院一人区を押さえてねじれ国会を現出させ、ついには総選挙で勝利しました。しかし、それは党内に異なる政策や支持基盤を持つ議員を抱え、マニフェストの政策が雪だるま式に膨れ上がっていくことを意味しました。この本では「2009年総選挙は、そこまでしなくても敵失で勝てた」と一刀両断(?)にしていま須賀、マニフェストの財源問題や最終的な党分裂といった民主党政権の亀裂は、この時点から既にあったと言えるでしょう。

ただこれは、「小沢が悪い」というような話ではありません*1民主党自民党の基盤に切り込めたのは、小泉政権に象徴される自民党側が、そうした基盤から無党派を意識した政策に切り替えた(「構造改革」路線)からであり、もっと言うと改革路線の本家だったはずの民主党が、郵政選挙で大敗を喫してしまったからでもあります。そこには自民・民主双方が党内対立を抱え続けた日本政治のありようが反映されています。

 

2冊目は、反対側の自公政権について、55年体制以降の連立政権のあり方という視点から論じた本です。連立に関する理論から歴史、そして現行の自公政権政権運営選挙協力までが鳥の目・虫の目両方交えて説明されています。

この本は、自公政権が安定的に持続している主な理由は、大きく分けて「連立のマイナーパートナー(つまり公明党)に配慮した政策決定およびそのプロセス」「地方レベルにまで浸透した高度な選挙協力による実利」の二つだと論じています。特に2017年総選挙では、選挙協力によって自民党が50前後、公明党が10 弱の議席を得ているとの試算も示されており、そうした「成果」をもとに永田町でも地域社会でも人脈の重層化が進んでいると指摘します。それゆえに「自公政権は、一般に考えられている以上に安定的」で、「野党が政権交代を目指すには、選挙制度改革を含む政治改革を行う方が近道かもしれない」。著者はここまで述べています。

一つの救いは、日本の選挙制度に関する理論面での指摘だと思います。著者によれば、衆院選小選挙区比例代表並立制は、複数政党が二極化しながら併存する「二ブロック型多党制」を招くとされます。この政党システムは、選挙時に政権選択をしながら細やかな民意を反映しやすくなる(「自公政権がいいけど福祉の充実を進めてほしい」と考える人が公明党に投票するなど)ため、優れた制度の一つと言えます。少なくとも下院の選挙制度として、私たちはこれを採用しているのです。

今の首相は、「悪夢のような民主党政権」と度々言い立てます。(先日亡くなった元首相が言うような)歴史という法廷に立つ時、断罪されるのはその現職首相の方だと私は確信していま須賀、民主党政権が悪夢だと言っても、自公連立の上に立つ安倍政権が悪夢だと切り捨てても意味がないばかりか、かえって有害だとしか思いません。前者の「失敗」に学び、後者の「成功」に学ぶことが、この国の政治を鍛えるのだと考えています。

 

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*1:まあ、悪くなかったとは思いませんけど