デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷 浩介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/10
- メディア: 新書
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団塊世代の大量退職など、現役世代の減少がいかに内需に影響を及ぼしており、またそうなっていくか。そのことを様々な角度、関連の度合いからデータを駆使して訴えており、少なくとも私には、人口変動が経済に少なからずの影響を与えていることを否定し去ることはできませんでした。その一方で、冒頭に挙げたような形での"not A, but B"のような論証と読めたかというと、ちょっとそれは難しかったというか、そもそもBに該当するのが何であれ、それに挑戦するのが誰であれ、そう容易なことでないように思います。
各論的に言えば、生産年齢人口減による内需縮小への処方箋として、大きく言って(1)高齢富裕層から若者への所得移転(=何かと入り用な人がお金を持っていた方が需要は増える)、(2)女性の就労や経営への参画促進(=現役世代の懐が温まるし、それは必ずしも少子化に直結しない)、(3)外国人観光客を増やす(=彼らの消費は丸々内需拡大につながる)、の3点を挙げています。それぞれ現状からの「難易度」は異なるで生姜、(1)の中で言われていた「大企業は若者の給料を増やせ!」というのは、正論ながらも容易ならざるものの一つだと思います。
確かに、回り回って自分のお客さんの首を絞め、つまりは自分の首を絞めていませんか?というのはその通りで、「所得移転で利益を得るのは企業なんだから、政府政府と言わずにより困っている方が自ら動くべきだ。出来る企業からやればいい」というのも間違った理屈ではないと思うので須賀、例えば日本にトヨタと日産とホンダしかないとして、ホンダだけがそれをやっても実効性には疑問がありますし、そこにトヨタが乗って実効性が高まっても、短期的な利益のために日産がそれを無視すれば、自らは対価を払わずしてフリーライドしたことになります。裏を返せば「有力な購買者層であるはずの若者という牧草地をむしり取り、結局草一本生えなくなって苦しむのは企業」という「共有地の悲劇」的な状況なわけで、そういう時に役に立つのは政府や政治家でないかもしれませんが、政治という現象にまつわる知見であるとは言えるような気がします。ちなみに、喩えで出ていただいた3社のいずれにも特段の感情は持っていませんし、顧客になったこともありません(笑)
「人口の波*2」という話になると、どうしても世代論チックになりがちで個人的には要警戒だと思っているので須賀、経済のみならず、今後の日本社会の姿を展望する上で十分押さえておいてよい議論ではあると思います。あと、講演はざっくばらんで面白いですよ。