情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー (朝日新書)
- 作者: 津田大介
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2018/11/13
- メディア: 新書
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インターネットやソーシャルメディアが普及し始めた当初、新聞の輪転機やテレビの放送設備を持たない市民が情報発信や交流の機会を持つことは、民主主義を鍛え、社会をよりよくすると多くの人が考えていました。
もちろんそれらが、そうした期待通りに機能した例*1も世界的に多くありま須賀、近年はネット上のコミュニケーションの問題点の方が目立つようになってきました。ネット炎上、(多くは誤った)コピペ記事、ヘイトスピーチ、フェイクニュースなどのことです。
(意外なほど多くが経済的動機でなされる)一部の悪意ある発信や、それをそうとは知らずに拡散させてしまう行為*2によって、そうした情報が氾濫する中、その「舞台」となっているTwitterやFacebook、日本ならYahoo!といったプラットフォーム企業には責任はないのでしょうか。特定の書き込みを消去し、他のものを残す判断をしているプラットフォーム企業の行為は、まさにメディアにおける編集行為と変わらないのではないか、とすれば、フェイクニュースやヘイトスピーチを放置することは、メディアとしての責任を果たしたことにならないのではないかーこのような批判が強まっています。
一方で、存在感でもビジネス面でもプラットフォーム企業に差をつけられ続ける既存メディアは、情報技術の進歩をどう取り込み、「情報戦争」をどう生き抜こうとしているのか…
この本はこうした問題意識から、2016〜18年の雑誌連載を元にまとめられた本です。当然時事的な話題が多いで須賀、その中でも上記のような大きな構造が掴めるようになっており、非常に勉強になりました。一つ一つのテーマや現象も興味深かったで須賀、現在のメディア状況について著者は、このように総括しています。
現在起きている情報戦争の本質とは何か。それは、ソーシャルメディアの影響力がマスメディアを超えつつあることで、事実が軽視されるようになり、その結果として、論理や理屈よりも感情が優越し、分断の感覚が増大しているということである…(中略)…情報戦争は、プラットフォーム事業者の隆盛と、資本の論理によって起こされている。
そしてその現状への対抗策として、4つの方法を示しています。
・「技術」で解決する・・・AIなどを活用し、フェイクニュースやヘイトスピーチを抑え込む
・「経済制裁」で解決する・・・問題のあるサイトに広告が出ないよう「兵糧攻め」にする
・発信者情報開示の改善で解決する・・・「書き込んだ者勝ち」の現状を改める
・「報道」で解決する・・・報道機関などがファクトチェックを通じてフェイクに対峙する
私は今年度(あと2カ月半)、新聞社からネットニュースを扱う会社への出向を経験しています。
canarykanariiya.hatenadiary.jp
1年弱いたからといってその道の専門家になれるわけでも、特効薬のようなアイデアを思いつくわけでも(残念ながら)なさそうですけれども、新聞社が旧態依然の情報発信を続けているだけではいけないと思う一方、著者の言うように、フェイクニュースの飛び交う今だからこそ、民主主義を鍛える良質な報道を目指していかなければならないと日々感じています。新聞社の取材・制作過程にも構造的な問題はもちろんありま須賀、日本においては未だ、高い取材力を持つ組織でありつづけています。
紙の新聞や特定の新聞社ではなく、民主主義を支える報道機関と民主的な社会がこの「情報戦争を生き抜く」にはどうすればいいのか、今の職場でもう少し考えていきたいと思っています。
いつもありがとうございます。