かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『北朝鮮・絶対秘密文書』(米村耕一)

北朝鮮・絶対秘密文書: 体制を脅かす「悪党」たち (新潮新書)

北朝鮮・絶対秘密文書: 体制を脅かす「悪党」たち (新潮新書)

金鉱山のヤミ採掘、放射性物質の密輸出、世界遺産地区での文化財窃盗…。こうした犯罪と捜査の顛末を記した文書から、北朝鮮の社会の現状と展望を論じた本です。
こういう一目見てヤバい犯罪が少なくない頻度で起きているという事実は「統制国家」という彼の国のイメージとの齟齬が大きいかもしれませんが、著者によるその他の情報源からの取材からも分かるように、90年代の「苦難の行軍」期に国家が国民に配給を行えなくなったことが、必然と言うべきか皮肉と言うべきか、あちこちの(ヤミ)市場で取引が活発化する資本主義の萌芽のような状況を生みだしています。そしてそうした建前からの逸脱は、新興の「資本家」と困窮し腐敗した軍や治安機関などの当局と癒着することでまかり通るようになり、経済的のみならず社会的な統制までも相当に緩んできている―そうした現状を報告してくれています。
実はこうした話は、脱北者らへの聞き取りなどからかなり知られてきていることではあるので須賀、中朝国境間を如何に多くのヒトやモノ、情報が行き来しているかについては認識を改めさせられました。「穀倉地帯である南部(つまり38度線側)で餓死者が多いのは、言ってしまえば中朝国境から遠くて情報に疎いお人好しが多いからだ」という指摘は非常にシンボリックでした。
加えて著者は、朝鮮王朝時代の農民反乱を引いて、統制の緩んだ社会に再びそういう人間が表れる可能性がある、とも「予言」しています。まあ所謂「北朝鮮崩壊論」というのは人口に膾炙して久しいですし、この本の中でも整理されていま須賀、果たしてどんなものでしょうか。「この布にはガソリンが染み込んでいて、いまにも発火しそうですよ」と論じることにかなり成功したのがこの本だと思いま須賀、火元がマッチなのかライターなのか静電気なのか、その点について予想するのはなかなか難しそうです。