- 作者: タミム・アンサーリー,小沢千重子
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2011/08/29
- メディア: 単行本
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タイトルは、主にヨーロッパのキリスト教世界が語る世界史(≒往々にして日本人が「世界史」と呼んできたもの)へのアンチテーゼとして、イスラームの視点に立った世界史を標榜しており、その試みは基本的に成功していると思います。ムスリムたちが十字軍をどうみなしていたかとか、ルターらの宗教改革をイスラームのスーフィズムによって説明したりとか、アラブの人たちからすれば、イスラエルとの問題の発端は「ヨーロッパ人がヨーロッパ人に対して犯した犯罪*1の賠償として、アラブ人の土地*2を犠牲にしろと言われている、としか思えなかった」としていたりというのは、その好例と言えるでしょう。特に宗教改革とスーフィズムの話がすごかったですね、そもそもなぜ自分が「宗教」改革という言葉からキリスト教という特定宗教の改革運動を
ただ、半分残念なことに、私にとってのこの本の意義は「イスラームから見た―」たることのみならず、「イスラームの―」ということにも見出し得るということも厳然たる事実です。要は、世界中で10億を優に超える人たちが共有しているストーリーやその登場人物について、自分が如何に無知であるかということ。視点云々する以前の問題として、大いに勉強になりました。
その中でムハンマドから正統カリフ時代に重点的に紙幅が割かれ、まさにドラマティックに話が展開されていたのも印象的でした。そしてまた、それらがかなり主観的な人物評を交えて展開されており、ストーリーテラーたる著者にもなんとなくそれを感じたことも事実です。それぞれの発展段階にはそれぞれの役割があるわけで、初期のウンマの指導者としてムハンマドが最も優れており、ウスマーンはちょっと…というようなこの本から受けがちなイメージがそのまま通ってしまうことには、若干の違和感があります。他にも各論的に「それは理屈からしてそういう言い方にはならないんじゃないの?」という部分はありました。それらを一々あげつらうのはやめておきま須賀、一つだけはどうしても。
この本はそれこそ、ヨーロッパのそれを中心に、イスラーム世界が紡いだ世界史との絡まり合いを見事に詳述してきました。十字軍然り、オスマン朝の興亡然り…。そうでありながら、著者はやや、その潮流の交わりを軽視しているように感じられなくもありません。この期に及んで、まさか、9・11で「それぞれ独自に紡がれてきた二つの世界史の物語が激突した」なんてことはありますまい。ハンチントンじゃあるまいし。
追伸的に言えば、日本向けの後期に書かれている「アラブの春」への分析は、カダフィ大佐殺害などの展開以前のものとはいえ、今後も何度か参照したくなるような興味深いものでした。