かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『マルクス入門』(今村仁司)

マルクス入門 (ちくま新書)

マルクス入門 (ちくま新書)

まさにタイトル通り「マルクス」の入門書です。何を当たり前のことを、とおっしゃる方も多いで生姜、「『マルクス』の入門書である」ということは、実は言外に大きなことを意味しています。この本は「『マルクス主義』の入門書」ではありません。
一般的に「マルクス主義」と言うと、ソ連や中国の共産主義政権を思い浮かべるのが当たり前で、良くも悪くも、いや、現在においてはほぼ悪い文脈において、それらの国*1の政治的成り行きがマルクスの思想の結実であると捉えられることもしばしばであるように思います。つまり、共産圏の崩壊によってマルクスの思想の非妥当性が明らかになった、という考え方です。
しかし、本当にそうなのか。「マルクス・レーニン主義」という言い方もありま須賀、マルクスの思想に影響を受けた(と称する)革命家たちが「マルクスの解釈権をいわば独占してきた」のではないか。そうした政治家たちの手垢にまみれたマルクス主義ではなく、マルクス本人が考え、多くの社会科学者に影響を与えたマルクス」主義について見ていこう、そんな本です。
内容としては、序章でこれまでの議論と関連するようなさまざまなマルクス思想の捉え方を紹介したのち、ギリシャ哲学やルソー、特にヘーゲルといった思想との関連の中で、「マルクスは何を訴えたか」というよりは、「マルクスはどんな考え方をしたか」という観点から話が進んでいきます。一番分かりやすい例を出せば、この本では『資本論』の具体的内容については詳述されません。むしろその根底にある「マルクス」主義を探る方向性が強いですので、私のようにズルして入門書だけ読んで諸著作の内容を大掴みしてしまおうというよりは、本当にマルクスの思想に体当たりで取り組んでいこうという際の、理解の補助線のように捉えるのが、本書のより妥当な使い方なのではないかと思います。

*1:極めつけは北朝鮮