- 作者: 師岡康子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/12/21
- メディア: 新書
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法規制の必要性を訴えるこの本では、日本法、国際法、英・独・加・豪・米の各国法におけるヘイト・スピーチの位置づけを押さえた上で、法規制そのものに反対する議論を一つずつほぐし、具体的に望ましい規制の手順・内容を提言しています。名誉棄損などの例を挙げるまでもなく、表現の自由それ自体が絶対的なものであるわけでもありませんし、「うまいことバランスを取るのが難しいから、いっそのこと全部ナシにしちゃおうか」と言ってよい性質のものでもありません。ミソとなるその制度設計を、他国の事例に学びながらよりよい形で進めていくしかない。なぜなら、これはジェノサイドにも直結しかねない「差別の扇動」だから―。私は著者のこの問題意識に強く共感しますし、議論の所々で明かされる日本政府や政治家*1の悪意的な無作為にこそ、怒りを覚えます。
もっと言えば、(私を含む)この社会に住む一人ひとりが、こうした差別行為やその扇動に対して十分な認識を持たないことは、「倫理的に宜しくない」などといった次元にとどまる問題ではありません。
ニーメラー牧師は…何千何万という私のような人間を代弁して、こう語られました。「ナチ党が共産主義を攻撃したとき、私は自分が多少不安だったが、共産主義者でなかったから何もしなかった。ついでナチ党は社会主義者を攻撃した。私は前よりも不安だったが、社会主義者ではなかったから何もしなかった。ついで学校が、新聞が、ユダヤ人等々が攻撃された。私はずっと不安だったが、まだ何もしなかった。ナチ党はついに教会を攻撃した。私は牧師だったから行動した―しかし、それは遅すぎた」と。
『彼らは自由だと思っていた―元ナチ党員十人の思想と行動』のこの言葉は、何度引用したっていいと思います。
「しかし、それは遅すぎた」と、私は言いたくありません。
*1:自ら進んでヘイト・スピーチを繰り返している某政党の共同代表などは論外