かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『大いなる失敗』(ブレジンスキー)

大いなる失敗―20世紀における共産主義の誕生と終焉

大いなる失敗―20世紀における共産主義の誕生と終焉

キッシンジャーとともに実務家そして学者として著名なブレジンスキーが1989年に、20世紀の共産主義という試みを「大いなる失敗」として分析した本です。ソ連の失敗とペレストロイカの展望、東欧圏の動向、いち早く改革開放に踏み切った中国、コミンテルンなど国際共産主義運動の低落など、出版当時までの共産圏の現状が網羅的に紹介されています。また、例えばこの本は中国の第2次天安門事件ベルリンの壁崩壊、ソ連崩壊といった大事件の前に書かれたものなので須賀、それら自体を予言するものではないにせよ、それらが起った要因として2011年を生きる私が理解しているものが十分に示唆されているとは言えると思います。
まぁ基本的には「共産主義はこんなにダメダメだ」「今更ゴルバチョフが何をしようがとてもじゃないけどムリ」みたいなことが縷々書かれているので須賀、2点だけ気になったことを指摘しておきます。まず1点目として、「マルクス主義」「レーニン主義」「スターリン主義」、あるいは「マルクス・レーニン主義」といった用語の指し示す概念についてです。気にしながら読むともちろん著者はそれらに違った意味を付与していることがわかりますし、スターリン批判やペレストロイカの理解はその差異を踏まえることがカギにもなってくるので須賀、全体においてその用語法がどこまで維持されているか、やや疑問な部分もありました。そこになってくると翻訳の問題である可能性もありま須賀、個人的な好みを含めて言わせてもらうと、それらの概念的な違いについてもう少し理論的に解説してくれてもいい気がします。
あともう一つ。いわゆる共産圏への悲観的・批判的な分析が大部分を占めるこの本において、西側諸国の社会保障制度の構築と関わりの深い社会民主主義への言及があまりにも少なかったことは残念でした。それこそ先進国で共産主義革命が起らなかったのは、それらの国の多くで共産主義との間の言わば折衷的な政策がしばしば採られてきたこととも無関係ではないわけで、「大いなる失敗」の「政治的・知的遺産」と言うなら、そのことについてももっと言及すべきだったと思います。
ちなみにこの方、オバマ政権にも影響力を及ぼしてるみたいですね。