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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『石橋湛山評論集』

石橋湛山評論集 (岩波文庫 青 168-1)

石橋湛山評論集 (岩波文庫 青 168-1)

戦前から言論人として活躍し、戦後には首相の椅子にも座った石橋湛山の評論集です。個人主義自由貿易主義、そしてそれらから帰結される小日本主義を旗印に、戦前戦後の各局面で彼がどのような論陣を張ってきたかが垣間見える一冊です。
女性の社会進出や、地方自治体への税源移譲と補助金廃止など、今読んでもそう違和感のない評論がいくつも出てくるのは、湛山の先進性と評価すべきなのか、相も変らぬ政治や社会の現状を嘆くべきなのか、やや複雑な気持ちにさせられま須賀、やはり彼の面目躍如と言うべきはここにも収録されている「大日本主義の幻想」でしょう。日本の対外膨張政策を擁護する「経済的自立には植民地や勢力圏拡大が必要」「国防のためにも周辺地域を勢力下に置く必要がある」といった理屈を、貿易データなどを駆使しながら論駁していく。まず、大正九年時点で朝鮮・台湾・関東州との貿易額はアメリカ一国に及ばず、イギリスとインドの計と同じくらいであることを示すなどして、経済的に特別な恩恵があるとの主張を一蹴しています。そして前にも紹介した山県有朋の国防上の「利益線論」的な見解には、「論者は、これらの土地*1我が領土とし、もしくは我が勢力範囲として置くことが、国防上必要だというが、実はこれらの土地をかくして置き、もしくはかくせんとすればこそ、国防の必要が起るのである。それらは軍備を必要とする原因であって、軍備の必要から起こった結果ではない」。これは、山県の発言当時からのステージの転回でもありましょうが、湛山の発言当時、いや、そこから1945年をも貫いた先の時代まで参照すべき卓見であるように思います。
恐らくこの本に対する最大の賛辞は、「ほかの局面で湛山が何といったのか、もっと読みたい」というものでしょう。特に、有名な「靖国神社廃止の議」が入っていなかったのは意外ですらありました。ちなみに老婆心ながら言うと、巻末の解説に目を通してから個々の評論を読んだ方が、それらの位置づけもより明確になると思います。戦時中のものなんかは、恐らくその方が楽しく読めるのでしょう*2。「そんなの読まなくても知ってるよ」という方には、私の不勉強から来る余計なお節介をお詫び申し上げます。
こういうのを書く仕事って、もちろん使命感のようなものもあるんで生姜、純粋に楽しいんだろうなって思うんですよね。

*1:満州や朝鮮など

*2:ただ、解説にあるようにそれらからどこまで湛山の「含意」を汲みとるべきかは率直に言ってよく分かりませんでした