かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『天皇はなぜ生き残ったか』(本郷和人)

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

天皇はなぜ生き残ったか (新潮新書)

「当為と実情」をキーワードに、中世を中心とした天皇の地位と果たした役割について論じた本です。「権力はなかったが権威を有した」という中世天皇像への懐疑からスタートし、権力も権威も失いながらも文化の発信者ではありえたその姿を、時代を追って説明しています。
こう結論だけ述べてしまうと「なあんだ、それだけのこと?」となってしまいそうで須賀、これまでなんとなく信じられてきた(少なくとも私は結構な程度そうだった)天皇の立ち位置に関する説を、史料を用いまた筋道を立てて覆していく、その作業にこの本のある種の爽快さがあると思います。歴史の分野において、一見もの珍しく聞こえそうな説の末尾が「――だった?」のようにクエスチョンマークで終わっていて、内容も眉つばだというのはままある話で須賀、この本ではその意味での確度がそれなりに文中に明示されているので、そのサインを見逃さずに読めばそういった歴史ファンの憶測ワールドに陥る心配もあまりないのではないかと思います。念のため言っておきま須賀、私はそういう憶測こそが大好きで、その世界の住人として育ってまいりました。
ちなみに最近の新書の、内容とはかけ離れたキャッチコピー的なタイトルがやや気になっているので須賀、この本はその意味でも良心的と言っていいと思います。