かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『現代日本の新聞と政治』(金子智樹)

【目次】

 

地方紙に焦点を当てた計量分析

これまで見落とされがちだった地方紙を中心に、新聞と政治(世論や政治家)との関係を計量的に論じた本です。
一口に「地方紙」と言ってもその地域でのシェアやプレゼンスはまちまちであり、そうした「メディアシステム」が各新聞社の社説の論調や政治報道に影響を与えており、またそれらは有権者の政治意識や投票行動と関係があることが示されていきます。一方で、この「関係がある」を「新聞購読が有権者の政治意識や投票行動に影響する」に言い換えてよいのかどうかは、著者の言う通り慎重な議論の積み重ねが必要なポイントではあります。

新聞社に身を置く立場で一点、留保しておきたいのは、社論や取材テーマの選定(アジェンダセッティング)において、著者が想定しているほど「社の方針」が上位下達的に貫徹されている社(あるいは状況)ばかりではないだろうということです。メディアシステムが各紙のスタンスに影響するというのは興味深い指摘で須賀、そうでない様々な要因が働いた上で、日々のコンテンツができあがるケースも少なくありません。

突然の廃刊が突きつけるもの

共同通信の参考資料をもとにした社説を頻繁に掲載していると考えられるのはどこの地方紙か」を炙り出してしまうなど、計量政治学の手法を用いた「力技」で、これまであまり詳細には論じられてこなかった地方紙の報道について全体像を示そうとする取り組みは、業界人にとってはかなり興味深いものだと思います。その上で、第2県紙「鹿児島新報」が突然廃刊した直後の2004年参院選でシェアの大きかった地域の投票率が大きく下がったという分析は、それぞれの新聞社の浮沈が一企業だけの問題ではないことを突きつけています。