- 作者: 羅鍾一,ムーギー・キム
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2017/06/09
- メディア: 単行本
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張成沢がいわゆる「苦難の行軍」の時期、海外を訪れる度に深酒して体制批判的にも聞こえる内容を口走っていたとか、韓国訪問中の彼に既に亡命していた黄長�惷が亡命を勧めたとか、金正日との間に金正男を産んだ成恵琳の、最初の夫との子供*1を張成沢夫婦が世話していたとか、あるいは張成沢粛清後、彼の妻であり金正日の妹である金慶喜のもとに金正恩が報告に訪れたところ、彼女は金正恩に拳銃の銃口を向けた…といったエピソードは豊富で、興味深く読むことができました。
一方で著者はこの張成沢の悲劇を、改革開放への姿勢以前に、「権力継承制度の不在」という切り口で解釈しようとしています。それはもちろんその通りなんだと思いま須賀、議論の射程が長すぎて、いくつかの権威主義・全体主義的国家を比較しながら論じるのならともかく、一国の実質ナンバー2の粛清の理由を語るのには道具立てとして大きすぎるような気がします*2。
あと、張成沢夫婦と(俺たちの)金正男との関係が最低限しか触れられていなかったのも印象的でした。「国家運営が立ち行かなくなれば、中国が金正恩を『廃位』して金正男を据え、張成沢を宰相役として改革開放を進める」というシナリオが囁かれた時期もありましたし、少なくともそれが脅しの意味で機能していた可能性は十分あり得ると個人的には思う*3ので須賀、そうしたファクターは考慮する必要はない、という判断なのでしょうか。
今、中国・丹東の鴨緑江沿いのホテルで、対岸を眺めながらこれを書いています*4。曇り空の靄の向こうは北朝鮮の新義州市。遊覧船などに乗れば、両岸の賑わいの差は一目瞭然です。あの向こうで、この格差を埋めようとした男の命運は悲劇的に尽きたわけで須賀、では今、対岸を統べる最高権力者は自国の経済発展についてどう考えているのか。アメリカまで届く核ミサイルを作って世界を脅迫したいのはよく伝わって来ま須賀、そちらの方は靄がかかったようによく見えません。