かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『草枕』(夏目漱石)

草枕 (1950年) (新潮文庫)

草枕 (1950年) (新潮文庫)

冒頭部の「智に働けば角が立つ」で有名な漱石初期の作品です。その文学論的な意味合いや、非常にゆっくりとした、というかあってないようなストーリー展開*1に著者が込めたろう意図については巻末にある江藤淳柄谷行人両先生の解説に譲るとして、やはりこの作品の最大の特徴は、和漢洋の教養に裏付けられた絢爛たる語彙だろうと思います。柄谷行人曰く「過剰に言葉を持っていた」漱石が、『楚辞』を読み返した後に書いたものだそうで、その都度「こんな日本語があるのか」と感心させられながら読み進めました。
でも個人的にはそういうある種の言葉遊び的なところとか、嫌味かも知れないけれどもペダンなところは嫌いではないです。これはこの作品に限らず、私が断片的に受容した漱石から受けている印象なので須賀、大抵そうした漱石の主人公たちは今で言うニートだったり、社会的にうだつの上がらない地位だったりしながらも、それでも気位は失わずに、かつ偉ぶるわけでなく知的に誠実に悩み抜こうとしているように見えます。それを自分に重ねているつもりはあまりありませんし、あまりそういうことをする意味も感じないんですけれども、気位、あるいは精神的向上心を失わずにいればまだまだ楽しく頑張っていけるんじゃないかと思わせてくれます。
漱石没後100年の年が暮れる直前に、酒に酔って書いてしまいましたが、少なくとも私はこの『草枕』から元気をもらった気がします。

*1:主人公が「非人情」と称して英語の文学作品をデタラメなページから読み始める一節などは象徴的です