かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥・夢十夜 (新潮文庫)

文鳥』『夢十夜』『永日小品』『思い出す事など』といった諸作品を収めた漱石先生の短編集です。私は小学生時代に『吾輩は猫である』を読んで以来、時には何となく、時にはなにがしかの義務感に駆られて彼の作品を読んできた経緯があるので須賀、久しぶりに短編を読んでみると実に知的で面白かったですね。例えば『思い出す事など』では、広い教養をもとにただうんちくを垂れるだけではなく、それが自分が病床で感じたこと、考えたことを筋立てて表現するためのうまい引用になっている。27番目なんかはモチーフが例の「高等遊民」(笑)とあって印象に残っています。
翻って『夢十夜』なんかは、「漱石の深層心理だ」なんて話で、一生懸命フロイトで解釈しようとしている人もいらっしゃるようで須賀、期してか期せざる結果か、いろんな解釈ができて、そこからいろんな想像ができるところがいいんだと思います。その代表例としての第七夜は、これが夏目漱石という作家の『夢十夜』という短編集の中の一編であるという事実以上に有名なのではないでしょうか。井上陽水について言ったことがあるかもしれませんが、解釈の可能性が開かれた作品って、芸術と言うべきか、少なくともコミュニケーションの性質を象徴的に表しているような気がして私は好きです。「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」とかも好きなんですけどね。
ものをゆっくり考える時間というよりは、そうするだけの精神的余裕が欲しいです。柄にも似合わず時間管理的なものにあこがれた日もありましたが、多分徹底的に管理された時間が幾ばくかひねり出されたとしても、楽しい妄想の時間にはならない気がするのです。