- 作者: 夏目漱石
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1986/11/29
- メディア: 文庫
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この『門』の世界は、解説で柄谷行人が言っている通り「暗く、くすん」だ雰囲気をまとっています。主人公とその妻のやりとりや弟とのコントラストから、主人公夫婦が背負う過去が示唆され、そして徐々に暴かれ、また彼らの慎ましい暮らしぶりは、私の目には大家の坂井の豪奢な暮らしを見るにつけ陰を帯びたように映ります。そのような空気感の延長、いや集大成として、彼の参禅とその結末がある。前段落から論旨が全く進んでいないのは急にネタバレが怖くなったからに違いありませんが(笑)、そうした『門』の色調に注目して解釈するなら、彼は唐突に参禅する必要があった、とまで言えるのかもしれません。
そしてもう一つ感じたのは、『門』の主人公も一種の「高等遊民」なのだな、という完全に感覚的な印象でした。確かに主人公は忙しく働く公務員であり、その十分とは言えない収入が物語の中で問題にもなっています。しかし私にはなぜか、主人公はお金がないと言っているだけであって、実際にお金があるわけではないが彼らにとってそれは大した問題ではない、というように思えて仕方がありませんでした。前述の通り彼は経済的な問題を抱えるので須賀、それがどうもリアリティがないww もしその直感に従うなら、この経済というリアルな問題との距離感こそがさっき言ったくすんだ雰囲気を醸し出していると言えるかもしれませんし、あるいはその逆かもしれません*2。いずれにせよ、こういう経済問題から距離のある(ように見える)人物というのは、やっぱり漱石ならではという感じがしますね。
漱石自体がかなり久しぶりだったので須賀、とても楽しく読めました。