かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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堕落論 (新潮文庫)

堕落論 (新潮文庫)

タイトルになっている「堕落論」をはじめとする坂口安吾の短編集です。後半の作品は「歴史探偵」としての歴史推理が中心で、歴史好きとしては面白いながらも、「(各地の歴史愛好家らが、古事記などの神話の中から)古代史の似た部分だけをとりいれてみんな自国の伝説と結びつけてしまう」(「飛騨・高山の抹殺」)という自信の批判を免れないようなものが多かったので、そのほかから簡単に。
堕落論」とだけ聞くと、彼がヒロポン中毒に苦しんだイメージから、どんだけヒドイ主張なのかと耳目を引く部分ではありま生姜、実際そこにあるのは生身の人間への力強い肯定です。歴史や制度に抗って、欲しいものを素直に欲しいと言い、厭なものは厭と言う、つまり堕落することが人間性を正しく発露させ、人間を救う。文学と人間の関係についても、「文学は人間の煩悶の中からたまたま出てきたものであって、いくら作品が評価されたって死んだら終わりじゃん?」と喝破する。そこに戦争という強烈な体験の影響を見ることは容易で生姜、「日本国民諸君、私は諸君に、日本人及び日本自体の堕落を叫ぶ。日本および日本人は堕落しなければならぬと叫ぶ」という安吾の叫びは、まさしく心からの人間肯定の詩なんだと思います。そしてやはり、人生において長く悩み、考え続けてきた彼自身の人間的強さを感じざるを得ませんでした。
あと「戦争論」は、カントの「永遠平和のために」に出てくる自然の合目的性の議論と類似しています、か??