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取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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面白かったけど、こうなりたいとは思わない/『総理』(山口敬之)

総理

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永田町取材を通じて安倍首相や麻生副総理と近い関係を築いた著者が、第一次安倍政権の終焉や第二次政権の成立、消費税や対米外交をめぐる意思決定過程をリアルに描き出した本です。注意力散漫な私がほぼ息継ぎなしに読み切れるほどには、興味深い逸話ややりとりが数多く紹介されています。ただ、「オレは安倍さんや麻生さんとこんなに仲良しで、直々に呼んでもらってあんなこともこんなことも教えてもらったし、安倍さんが総裁に返り咲いたのにもオレが一枚も二枚も噛んでるんだぜ。菅さんにもそう言われたし」と嬉しげに自慢されても、私はそれを手放しに賞賛する気持ちにはなれませんでした。その違和感が頭をもたげた最たる部分は、総裁選に立候補しようとした野田聖子氏を引き合いに「総理たるにはしっかりした国家観や覚悟が不可欠」(安倍首相にはそれがある)などと論じた箇所でした。続けて「秘密保護法や安保法、原発再稼働など、不人気政策を推し進めても支持率が下がらないのは、安倍首相の本気度が評価されているからで、現況で他に代わる存在がないからだ」などとしているので須賀、これが果たしてジャーナリストを称する人間の主張なのかと驚く半面、消極的に安倍政権が支持されている状況を(皮肉にも?)うまく表現しているような気がしました。
一言で言ってしまうと、国家観がはっきりしていれば、その中身は何でもいいのか?ということです。著者は先述したような論点の是非については全く議論せず、むしろ「リベラル派が党派的に反発しているだけだ」と言いたげな態度です。中身は問わないが、本気度がある。それで十分なら、ヒトラーだって著者のお眼鏡にかなうということなのでしょうか。
この本では、安倍首相や麻生副総理が実は非常に魅力的な人物である、ということが頻りに描かれていますが、その点について(推測も込めて)否定するものではありません*1。ただ、田中角栄の名を出すまでもなく、有力政治家ともなるような人間は人間的魅力にも恵まれているケースが多く、多分この2人が特別だ、という印象は持たない方がいいだろうと思います。加えて著者は「アベ政治を許さない」と連呼する面々に、私の言葉で言わせてもらえば「アベ本人やアベ政治をもっと内在的に理解せよ」と促すので須賀、逆に言えば、政策の中身を論じずに国家観と覚悟の有無だけで総理の器と称揚するのはジャーナリストによる内在的理解であるとは私はみなしません。すでに亡くなっている人を持ち出すのはやや格好悪いですけど、これを筑紫哲也が読んだら「君は安倍と麻生の使い走りじゃないか」と言うのが目に見えている気がします。
大した特ダネを書けなかった記者の僻みかもしれませんが、こうなりたいとは思わないです。

*1:元首相時代の安倍晋三さんと一度だけ接したこともありま須賀、ここに出ているようにユーモアあるやり取りの上手な方という印象を持ちました