かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
ブログランキング・にほんブログ村へ

維新が伸びた理由とまだまだ続きそうな政界再編/『政界再編』(山本健太郎)

【目次】

 

他党と選挙協力や合流を重ねると「選挙目当ての野合」と批判され、政策で純化すると党内対立が激化し分裂するー。主に現行選挙制度下で野党が抱える政界再編のジレンマについて論じた本です。10月31日の総選挙とその後の政局に深い示唆を与えてくれる議論もありますので、そこを切り口にご紹介します。

立憲民主党が減らし、日本維新の会が伸びた理由

著者は、政治改革後に登場した新進党をはじめとする非自民野党の歴史を振り返りながら、安全保障などのイデオロギー的な論点ではあまり尖った主張をするより、行政改革などを通じてよりよい統治パフォーマンスを出せることをアピールした方がよい、と有名なダウンズの空間理論を引用しながら述べています。長期政権を保つ自民党が右寄りにある以上、対抗する野党は左側をうまく押さえつつ、ボリュームゾーンである(と思われる)中道に寄るべきだという提案です。

この著者(やダウンズ)の議論から見て、今回の総選挙結果はどう分析できるでしょうか。まず、自民党がどの位置にいるのか、判断しかねる有権者が多かったのではないかと思います。著者が指摘したように、長期にわたった安倍政権は明らかに自民党政権の中でも右寄りでしたが、新しく成立した岸田政権がどちらに動くのか、ややもすれば相反するメッセージが流されてきました。宮澤喜一以来となる、自民党内で最もリベラルとされる宏池会出身の首相であり、(言う順番はともかく)富の「分配」という論点を大きく掲げました。

一方で、安倍元首相に近いとされる人物が幹事長や政調会長に座り、敵基地攻撃能力の保持についても積極的な発言をするなど、実態は安倍政権の継続の色合いが強いように見え、そして何より、発足直後の選挙であり、良くも悪くも判断材料となる実績がほとんどありません。岸田自民党がどちらに動くのか、未知数の要素が多い段階でした。

逆に、民進党のリベラル派が立ち上がった立憲民主党はしばらく理念的な凝集性を重視し、今回総選挙では特に、さらに左に位置する共産党と本格的な野党共闘に踏み切りました。もともと左寄りだった野党第一党が、さらに左に寄った印象を与えたとすれば、中道的なスタンスの有権者は身近には感じなかった可能性があります。

そこに出てきたのが、「第三極」*1の維新です。彼らが選挙で訴えたのが改革、すなわち本書で言うところの「よりよき統治」であり、大阪府・市での実績である、とされました。政権の立ち位置がわからない、野党第一党は左に寄った。その空いた隙間に、イデオロギーより改革姿勢を語った維新が入り込んだというのが、選挙協力をしたにもかかわらず立憲民主党議席を減らし、維新が急進した一因と読み取れます。

政界再編を巡る動きは続きそう

本書の議論を当てはめると、選挙後も政党間の議員の移動や新党設立など、規模はともかく政界再編の動きは起こりやすい状況と言えそうです。

著者は、与野党2大陣営が強い時期より弱い時期の方が、第三極が立ち回り、選挙で生き残る余地が増えると述べています。現状、自民党立憲民主党議席を減らしており、特に後者は敵失の目立った試合で負けてしまったわけで、既存の第三極政党が議員引き抜きを図ったり、今は国会にいない勢力が国政新党を立ち上げる誘因は高いことになります。特に立憲民主党は、選挙前に旧国民民主党など、やや保守的な議員を糾合しています。党内で執行部の責任を問う声が高まっているのは当然のことだと思いま須賀、著者が指摘する「落ち目になることが路線対立を深める」パターンに陥ってしまうのかどうかは、当の執行部のマネジメントを含め、焦点になってくるのではないでしょうか。

維新は先述のように、立憲民主党保守系議員に秋波を送りつつも、中長期的には自民党政権に近いスタンスをとっていくことが、本書で振り返った歴史からは予想できそうです。

自公政権とは何か』との併せ読みがオススメ

このように、55年体制終焉後の政治史を語りつつ、特に今回の総選挙と政治情勢を考える上で勉強になる知見も盛り込まれており、興味深い一冊でした。

canarykanariiya.hatenadiary.jp

同期間の自公政権側を分析したこちらと併せ読むと、さらに面白いと思います。

その上であえて言うなら、本書でのダウンズを敷衍した議論はややシンプル過ぎる印象を受けました。構成の問題として、最後に持ってきて(このレビューの前半で述べたような)結論を補強するのに使うより、最初にモデルを説明して、その都度妥当性を示していく方が説得力があるように思いました。

図書館で借りて読んだので須賀、手元に置いておこうと思います。

*1:と言いつつ実質的には与党の補完勢力に見えま須賀