現場を離れて久しい新聞記者のブログ。 読んだ本の紹介や旅行記(北朝鮮竹島イランなど)が中心です。 

『「安倍一強」の謎』(牧原出)

「安倍一強」の謎 (朝日新書)

「安倍一強」の謎 (朝日新書)

政治学者の著者が、政権交代のサイクルという観点から「盤石ではないはずなのに強い」安倍政権の謎に迫る本です。と書くと、謎を提示する前に種明かしをしてしまうようなものなので須賀、著者は選挙によって下野し、さらに政権の座に返り咲いた自民党が、相手方の民主党に学び、その政治的遺産となりうるものをもうまく継承した点にその強さを見ています。例えば、どう見ても首相と肌が合いそうにない谷垣前総裁が入閣し、次いで幹事長の要職を務めることで、結果的に消費増税などに関する三党合意の継承を担保する形ができていると分析していますし、首相の国会答弁や会見などでの発言についても、地金がよく出るのはともかく、肝心なところで裏方がコントロールしていることを見て取っています。このように、安倍政権の謎、というより様々な特徴を、しばしば行政学的な観点からクリアに切り取って示してくれる本です。
その一方で、こうした政権の特徴を「政権交代時代への移行期の特徴」にやや還元しすぎているようにも見えました。多分そこに結び付けるのは論理的作業としてそこまで難しくないと思えるだけに、それこそ例えば首相のパーソナリティなどの要因に帰するべきものまで「移行期の特徴」にしてしまっているのではないか、少なくとも「他の要因よりも、政権交代時代へ入っていく時期の過渡的状況の発露だと捉える方が当たってますよね」という論証が十分になされていないのではないかと感じざるを得ませんでした。
もう一つは、これからは政権交代時代だという状況規定そのものについてです。政権党がA→B→Aとサイクルしているのは見ての通りで、最近できたB'が次に来るのか、あるいはCが来るのかは些事で生姜、そのように代わっていくあり方が政治改革の意図したところではあります。しかし、今の政権が行っていることは、そもそもそうした政治システムの根本にあるべきルールを掘り崩す行為ではないのか、と私は考えています。もしそれすらも「移行期の特徴」なのだとすれば、その移行は失敗しつつあると言わねばなりません。立憲主義や民主主義などの根本的な価値が破壊されてしまえばそれは不可逆的な変化で、サイクルどころではないからです。Aがダメだと多くの人が気付いた時には、すでにBやCという選択肢すら抹殺されているかもしれません。そのリスクについてはかなり楽観的というか、外形的な議論の立て方だなあという気はしましたね。