かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

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『ヴェニスの商人の資本論』(岩井克人)

ヴェニスの商人の資本論

ヴェニスの商人の資本論

書名となっているものを含め、資本主義や貨幣などにまつわる幅広い論考を収めた本です。シェイクスピアの有名な喜劇を紐解いていたら、いつの間にか利子や貨幣の話になっていた―みたいな多彩な切り口のものが多いで須賀、問題意識はほぼ通底している、と言ってよさそうです。即ち、(1)等価交換が原則である*1はずの経済活動において利潤が生まれるのは、場所や時間による価値体系の違いといった様々な差異を消費しているからである、(2)貨幣というのは歴史的にも機能的にも想像以上に「色付き」の存在で、(3)それゆえに(また賃金の下方硬直性など種々の「現実的な制約」ゆえに)「神の見えざる手」などというものを想定する方が却って中央集権的で不自然な考えなのではないか*2、というようなことをもっと精緻に言わんがための議論が、手を替え品を替え展開されているのです。
私のように経済学の前提知識のない読者は、先に進むほど難解に感じる頻度も増えるやもしれませんが(私だけ?)、少なくとも冒頭の表題作には、それを「乗り切らせる」(読んでいればこれと同じくらいの面白い話に行きあたるのではないか、という期待を持ち続けさせる)だけの魅力があります。個人的には、『入門マクロ経済学』(井堀利宏)と続けて読んだのはこの本がおまけというよりこの本を読むために教科書的な予習をしたという方が近かったりもするんですけど、その際になんとなく書いた「ファジーさ」という言葉は(3)の論点とリンクしていなくもなくて…と主張するのは後知恵過ぎるでしょうか。
実は30年以上前の本なんで須賀、今でも読み応えは十分です。(それと比べれば)割と最近、文庫版も出たそうですよ。

*1:労働による付加価値も、その労働力との等価交換と見做される

*2:介護や保育といった、少なくとも局所的には需要が過多な分野への人材供給が思ったように進まないのにも、そうした要因が考えられるでしょう。と先日たまたま示唆をいただきました