かぶとむしアル中

取材現場を離れて久しい新聞社員のブログ。 本の感想や旅行記(北朝鮮・竹島上陸など。最初の記事から飛べます)。

北朝鮮竹島イラン旅行記
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『大津中2いじめ自殺』(共同通信大阪社会部)

「自殺の練習をさせられていた」などショッキングないじめの内容に教育委員会側のまずい対応も重なった結果、大きな社会的反響を呼んだ大津市での中2生徒自殺を中心に、いじめをめぐる教育現場の実態を報告する本です。学校生活などで見受けられたさまざまな「シグナル」への対応が悉く後手に回っていった延長にその悲劇が起きたこと、その後の対応では教委側の「隠蔽」が批判されたが、学校で何が起こっていたかについてそこまで明らかになるケースもそう多くはないこと、多忙化・「実績主義」化する教育現場の実態と、子供たちの声をすくい上げるための取り組み―こうしたところを多方面から掘り下げています。
こうした話に接して一番感じるのは、やはり「どうして死という手段まで選ばねばならなかったのか」ということです。「誰も自分の思いを分かってくれない」という絶望に駆られてしまう―と表現すべきか、現実にはその子に寄り添っているつもりでいる/寄り添いたいと思っている人が身近にいたとしても、その人とのボタンの掛け違いが孤立感を与えたような状況が見受けられるケースは、この本でも複数紹介されています。社会人や大学生といったライフステージと比べれば、所属ないし関与する世界が少なく*1、学校という場の磁力が強烈であることは容易には変わらないでしょう。しかし、学校に通う子供たちにより多くの「居場所」があれば、(もちろん学校でいじめを受ける状態の解消が第一義的に目指されるべきで須賀)学校での人間関係を相対化しやすくなるでしょうし、自分が置かれた立場や心境を訴えられるような大人や友人も得やすくなる。これはこの本の中で出てくる取り組みとも共通する発想だと思いますし、いじめ自殺の問題のみならず、長期的にはそういった環境が子供を取り巻いていくことが好ましいのではないかと感じました。

*1:そのため「誰もわかってくれない」との想念に襲われやすいと思われる